2010年08月04日

不況の象徴と財源負担の無いドル建て日本国債

@【長期金利 一時1%割れ…景気減速懸念、7年ぶり水準】
http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/mnews/20100804-OYT8T00728.htm

A【長期金利一時7年ぶり1%割れ、「日本選好」海外資金流入も】
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-16638920100804

B【景気拡大下でも利回り最低 米国債 欧州不安で資金流入】
http://www.sankeibiz.jp/macro/news/100727/mcb1007270505016-n1.htm

いやいや、すごいですよ。ついに、10年物の日本国債の利回りは1%を切りました。日本国内に、ろくな投資先がない事と、Aの記事にあるように海外からも日本国債を買う動きがあるようですね。さらに、米国債についてもBの記事のように利回りの低下が続いています。
基本的にどこの国でも国債は、不景気の度合いが強まるにつれ安全な金融資産として買われます(利回りが低下します)。一方、景気拡大時になると相対的に利子や利回りの大きい株や社債等に資金が流れるために国債が売られます(利回りが高くなります)。つまり、今の日本国債や米国債の利回りは、両国の不況のシグナルと捉える事ができますし、極端に言えば日本国債バブルとも言えます。


【欧州債:独30年債利回り、約3週間ぶり高水準−入札で応札額達せず】
http://bit.ly/boGerD

「日米の国債利回りが低下しているという事は、ユーロ圏もそうなのか?」というと、実はそうでもなかったりします。つい最近、↑の記事の通り、孤軍奮闘でユーロ国を引っ張るドイツでさえ、30年物のドイツ国債が札割れに追い込まれました。いや、これはドイツの景気が良いから投資家が利子や利回りの良い株や社債を買っているからではなく、ユーロ圏への信用不安からドイツ国債が売れないわけで、事態は欧州の方がやばそうですね。もちろん、ドイツの場合は同一通貨であるユーロを使っているギリシャに足を引っ張られている側面はありますが、いずれにしてもユーロ圏の国は不景気・不況を通り越して、恐慌と言ってもいいのではないでしょうか?


さて、ここからは世界経済が最悪の方向で動いた場合に、その後に何が起こるかを予想してみます。まず、ユーロ圏の国の恐慌が収まらないとすると、ユーロの信用不安から米国債や日本国債がますます買われてしまいます。その結果、日本はさらなる円高と日本国債の利回り低下が進むでしょう。おそらく、ある程度円高が進めば政府や日銀の方も現状維持の金融政策を捨てて、さらなる金融緩和をするかもしれませんね。日本は米国やユーロ圏の国と違い、金融緩和においてはまだまだやれる余地を残しているとは言え、本格的な量的緩和みたいな事をやりだすと、海外勢は日本国債を売って実物資産の購入に走り出すんじゃないかなぁ……。
元々、日本国債は海外勢保有者が少ないので、仮に海外勢が日本国債を売り払っても大きな利回り上昇にはならないし、さらに、日本にはまだ量的緩和(日銀による長期国債の買い切り)の手が残されているので、世界的に見れば相対的には非常に安全国です。


もし日銀がこのまま金融緩和しないのであれば、ここで一つ提案してみたいのは「ドル建て日本国債」です。経常収支がしばらく赤字にはなり得ず、しかも大量の米国債を所有している日本が使える有効な手段です。
ご存知のように、日本政府は100兆円以上の外貨準備高の大半を米国債で所有しています。この米国債の利回りはドルで支払われるのですが、これを全て円に換えようとすると円高になってしまうわけで、日本の産業や雇用情勢を考えるとあまりしたくないところです。もしドル建て日本国債を発行すれば、このドル建て日本国債の利回りを日本政府所有の米国債の利回りで支払う事ができるので、日本政府の財政負担はほとんどありません。(現在の10年物の日本国債と米国債の利回りはそれぞれ1%と2.8%程度なので、この差額の1.8%をドル建て日本国債の利回りに充てられます。)しかも、ドル建て日本国債であれば、円高になればなるほど円で見れば実質の負担は軽減されますよね。
「中期的には自国通貨安の要素があまり無い」「自国国債の利回りが低く、米国債の方が利回りが大きい」「大量に米国債を保有している」という条件が揃っているので、ドル建て日本国債は一考に値するとは思うのですが、どうですかね?もちろん、アメリカ政府はあまり良い顔をするとは思えませんし、逆に円安に振れてしまうと実質負担が重くなるのでデメリットもあるわけですが、とりあえず短期日本国債の一部をドル建てで発行してみたらどうかなぁ……。



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posted by きらっち at 20:56| Comment(52) | TrackBack(1) | 経済

2010年07月26日

2010年5月現在の日本と中国の米国債保有状況

さて、今日は日本と中国の米国債保有状況を見てみましょう。


201005_us-treasury.jpg
↑が、2010年6月現在の米国債発行残高と日本と中国の米国債保有状況です。

まずは、米国債発行残高を見てみましょう。アメリカはリーマンショック後、景気対策法(7820億ドル)と金融安定化法(7000億ドル)等々の財源確保のために、ひたすら米国債を刷り続けています。今年の6月には、米国債の発行残高は13.2兆ドルを程度となりました。現在のレート(1$=87円)で円換算すると、これはおよそ1150兆円程度ですかね。
アメリカは2008年1月から2010年6月の二年半で、割合で書くとおよそ43%、金額にしておよそ400兆ドルも米国債発行残高を増やしました。ただし、これだけのペースで米国債を刷り続けているにもかかわらず、↓の記事の通り、10年物米国債の利回りは下がり続けて現在は3%を切っています。

【超長期債利回り低位安定、需要拡大でリーマンショック後の最低視野も】
http://www.bloomberg.co.jp/apps/news?pid=90920018&sid=at8VG2WqUb7I

やはり世界的な不況が続いていることで投資先が少なくなり、安全資産である米国債が買われているということでしょう。通常の経済状況では、誰かが株や社債等に投資することによって、お金が広く世の中に流れて好景気を作り出すわけですが、現在はリスクのある株や債券にはお金が回らず、米国債に資金が集中しているわけです。今はアメリカ政府の支出によりアメリカの景気も何とか持ちこたえているわけですが、今後アメリカの財政再建の圧力が強くなればアメリカも政府支出を絞る事で、お金の出し手がいなくなる事が心配です。

ちなみに、アメリカは↓の記事の通り、1月に1430兆ドルまで米国債発行上限を上げる法案を通しました。とは言え、今の米国債発行ペースであれば、数ヵ月後には再びこの上限値が突破しそうですねぇ……。

【Senate agrees to record increase in debt limit to $14.3 trillion】
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2010/01/28/AR2010012800522.html


さて、それでは日本と中国の米国債保有状況を見てみましょう。

まずは中国です。2009年7月に突然、中国の米国債保有額が上がっていますが、これは2009年7月から米国債保有額のカウントの仕方をアメリカの国債局が変えた事によるものです。この辺の詳しい事情はよくわかりませんが、とりあえずこの急増はあまり気にしないこととします。
とは言え、中国は2009年12月から外貨準備高の運用方針を変えたのか米国債保有を減らしています。この辺りは人民元の柔軟化政策ともかかわってくるので、今後の展開が面白いことになるでしょうね。
俺が中国の外貨準備高の運用責任者であれば、中長期的には当然のごとく元高ドル安が進む事により、米国債をなるべく売り払いたいところです。じゃあ、一体外貨準備高を何で運用すればいいのかと考えた場合、他通貨で運用するという前提ならば、円が相対的に見て一番元高にはならないのではないかと思うので、中国は今後日本国債を買い出す可能性があると思います。(日本にとって、良い話なのか悪い話なのかは微妙なところですが。)

そして、日本の米国債保有額ですが、順調に積みあがっていることがわかります。とは言え、日本の場合は政府が米国債を買っているわけではないので、民間企業が買い増していることになります。
個人的には、利益追求する民間企業が「何で円高ドル安の進む中で、わざわざ米国債を買いたいのだろうか?」と思うのですが、日本企業が海外支店でだぶついたドル資金で米国債を買ってるのかな?あるいは、世界経済が正常に戻って円安になることを見込んで、日本の金融機関が米国債を買ってるとか?


いずれにしても2010年5月の時点では、日本(7868億ドル)と中国(8677億ドル)で米国債発行残高(13兆ドル)の13%程度を保有していることになります。「この程度の割合であれば、中国が米国債を売りさばいても、アメリカ政府は何とか耐えられるんじゃないの?」と思わなくもない数字ではありますが、国際収支の経常収支が大幅黒字国である中国や日本は、安定した世界経済を実現するためにも、個人的にはある程度の米国債やユーロ国の国債を買ってもいいような気がします。(それが、自国の国益にもつながると思うのですが……)



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2010年07月24日

選挙制度で負けた民主党

とりあえず今日は、2009年衆議院選挙と2010年参議院選挙の得票率を比較してみましょう。確かに選挙結果(獲得議席数)は民主党が惨敗でしたが、得票率から垣間見える民意は、選挙結果とは微妙にずれている事実がわかります。


elec-comp.jpg
という事で、↑の表が2009年衆議院選挙と2010年参議院選挙の各党の得票率の推移です。まずは、民主党から見てみましょう。民主党は2009年衆議院選挙と2010年参議院選挙で、比例代表では得票率が42.41%→31.56%、選挙区では47.43%→38.97%と、かなり落ちたことがわかります。ただし、2010年参議院選挙においても得票率に関して言えば、第一党を維持していた事になります。にもかかわらず、獲得議席数で改選第二党になってしまったのは、1人選挙区で接戦の末に8勝21敗と大きく負け越したした事が原因です。つまり、選挙結果から推測される民主党の票の取り方は、人口の多くない県で接戦の末に敗れたけれども、複数選挙区の人口の多い県でたくさん票を取ったという事でしょう。事実、東京都の選挙区では民主党が2人当選しています。

一方で、民主党が得票率を減らした分、逆に大きく得票率が伸びたのはみんなの党です。みんなの党は、比例代表では得票率が4.27%→13.59%、選挙区では0.87%→10.24%と、得票率で大躍進しました。みんなの党は、全県の選挙区で候補者を立てていませんでしたが、もし全県で候補者を立てていれば、10%後半の得票率を取れたかもしれませんね。選挙区の得票率に関しては、候補者をたくさん立てれば立てるほど得票率が上がるので、一概に比較できるものではないのですが、いずれにしてもみんなの党は局地的に支持を得ているわけではなく、全国的に票を取れる政党に成長している事がわかります。

そして自民党ですが、比例代表では得票率が26.73%→24.07%、選挙区では38.68%→33.38%と、多少減少しています。おそらく、前回の衆議院選挙からみんなの党、たちあがれ日本、新党改革等に票が流れたのでしょうね。ただ、それにしてもこれだけ得票率をまだ得られるという事は、さすがというか何と言うか自民党の凄さを感じます。ただ、選挙区の得票率については、公明党に随分助けられているような気もしますが。

その公明党ですが、比例代表では得票率が11.45%→13.07%、選挙区では1.11%→3.88%となっています。公明党の比例代表の場合は組織票が固いので、投票率が高ければ公明党の得票率は下がるし、投票率が低ければ公明党の得票率は上がるわけで、なかなかこの票だけだと確かな分析は難しいですね。ただ、公明党は比例代表の得票率の割には、選挙区での得票率が大きく落ちます。これは公明党が、「勝てる選挙区にしか候補者を出さない」という選挙方針があるからです。なので、実際に2010年参議院選挙では、選挙区の得票率がわずか3.88%にもかかわらず、3人の候補者全員を当選させています。公明党はある意味で、最小限の労力で最大人数を当選させているとも言えるので、なかなかスマートな選挙戦略であったと言えるかもしれません。

公明党と逆の戦略を貫いているのが、共産党です。共産党は、比例代表の得票率が7.03%→6.10%、選挙区では4.22%→7.29%となっています。共産党の場合は、2010年参議院選挙の全選挙区において候補者を立てたので、得票率は7.29%を取りました。もっとも、当選した人はいませんでしたので、7.29%全てが死票になってしまいましたが……。ちなみに、2009年衆議院選挙の選挙区では4.22%しかとれていませんが、これは300の小選挙区の半数程度しか候補者を立てなかったためです。比例代表では、それなりに議席も獲得できるわけだし、勝てない事がわかっているのに選挙区に候補者を立てても、供託金の没収がもったいだけのような気がするんですが……。


その他の小政党については省略しますが、今回の2010年参議院選挙については、自民党は「選挙制度」と「実質的な公明党の選挙協力」によって、相当に助けられた側面があります。得票率でみると自民党はまだ民主党に差があるので、やはり得票率でも第一党にならないと、真に選挙に勝ったと胸を張って言えないのかもしれません。一方で、次の衆議院選挙でもみんなの党が台風の目になりそうですが、個人的には民主党と同様にみんなの党のアジェンダは「本当に実現できるのか?」と思ったりもしています。


という事で、今回は全国を対象にして、2009年衆議院選挙と2010年参議院選挙の各党の得票率を見てみましたが、近いうちに東京都の2010年参議院選挙結果を分析しようかと思いますので、取り急ぎ予告しておきます。



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posted by きらっち at 17:28| Comment(11) | TrackBack(0) | 政治

2010年07月21日

2010年5月の日米欧中マネーストック最新状況

@【2009年12月の日米欧中マネーストック最新状況】(2010年2月10日)
http://kiracchi-serendipity.sblo.jp/article/35247479.html

さて、日米欧中のマネーストックについては、↑@で昨年12月の統計まで推移を見ていましたが、その後はどうなっているのでしょうか。今日は、今年5月までの統計を見てみましょう。


201005_money-stock_juec.JPG
という事で、↑が2010年5月までの日米欧中のマネーストック推移となります。毎回、このグラフを見るたびに、「誰もが思う突っ込みどころが1点あるよなぁ」と思っちゃいますね。(笑)


さて、とりあえず今回はEUから見てみましょう。EUは、リーマンショック後の2008年10月からマネーストックがほとんど変化していません。元々、EUはインフレを抱えている国が多いため、必然的にマネーストックが増加していたわけですが、その流れがリーマンショックでパタリと止まりました。EUのマネーストックはM3(=M1+定期預金+据置貯金+定期積金+外貨預金+CD(譲渡性預金))を取っています。ここではグラフは出していないのですがEUのマネーストック(M1)は順調に増加していることから、「定期預金」「据置貯金」「定期積金」「外貨預金」「CD(譲渡性預金)」を削って、M3にカウントされない何かを購入している事になります。それが株なのか債券なのか、あるいは金や原油に代表される資源関係かはわかりませんが、このバランスシート不況の中でEUの人たちが「株」「債券」に多く流れるとは思えないので、EUのマネーストックが増加しない今の状況は非常に嫌な感じがします。


アメリカについても、マネーストックについてはEUと似た状況かもしれません。ただ、アメリカのマネーストックはM2(=現金通貨+国内銀行等に預けられた預金)を取っているので、外貨預金で海外に逃げるマネーはカウントされていません。しかも、アメリカのマネーストックは微増ながらも増え続けているため、EUほど深刻な状況でも無いように思えます。おそらく、量的緩和によって溢れたマネーが海外投資に向かったり、株や債券等から資産シフトにより現金・預金に移った一部が再び株や債券等に戻る事で、マネーストックの増加率が落ちているのだと推測できます。もしこの推測が正しければ、アメリカは少なくとも5月までは正常な経済を取り戻しているとも言えるかもしれません。(最新の経済指標では、二番底の懸念が出てきましたが……)


日本については、ほとんど2007年から変化がありません。あえて書くのであれば、2009年1月辺りからマネーストックの増加率が多少上がっているような気がします。ここでは詳細なグラフは載せていませんが、これの主な要因は「定期預金」「据置貯金」「定期積金」が増えている事なので、明らかに株や債券等の金融資産から安全資産である「定期預金」等に資産シフトが起こっているわけです。この流れだと、結局預金を預けられた銀行は日本国債を買うしか無いのですが、肝心の政府が予算を絞る方針なので、これからも景気が大幅に良くなる事はないでしょうね……。


そして、一番の突っ込みどころの中国です。3年5ヶ月でマネーストックが1.9倍になっているので、尋常な状態じゃないような気がしますね。ただ、最近の中国の名目GDP成長率(2007年23%、2008年18%、2009年7%)を察するに、マネーストックが経済成長率に比例するのであれば3年間で1.55倍(=1.23*1.18*1.07)程度の増加については、自然なのかもしれません。とは言え、実際の中国のマネーストックは2007年から3年間で1.7倍になっているので、何らかの歪が出ていてもおかしくないような気がしますが……。


という事で、次はまた半年後くらいに「マネタリーベース」と「マネーストック」について、追ってみたいと思います。



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posted by きらっち at 22:22| Comment(56) | TrackBack(4) | 経済

2010年07月19日

2010年5月の日米欧中マネタリーベース最新状況

@【2009年12月の日米欧中マネタリーベース最新状況】
http://kiracchi-serendipity.sblo.jp/article/35176671.html

ブログ再開の第一弾として、今日は各国マネタリーベースの最新状況を見てみましょう。@で、2009年12月までのマネタリーベースは見てみましたが、果たして何か大きな変化があらわれたでしょうか?


201005_money-base_juec.jpg
という事で、↑が2010年5月現在の日米欧中のマネタリーベース推移となります。何回も書いて申し訳ないのですが、「マネタリーベース」とは「各国中央銀行が社会に供給するお金の総額(通貨流通量+民間銀行への当座預金残高)」という事になります。ここでは各国の通貨単位がバラバラで数字の桁も異なるので、2007年1月の各国のマネタリーベースの数字を100として指数化したものの推移を表しています。

アメリカを見てみると、2010年2月をピークにしてマネタリーベースが落ち着きだしました。アメリカは昨年にこれ以上の量的緩和を打ち切っていて、とりあえず今の水準で様子見というところなんですかね?

EUについては、2010年に入ってマネタリーベースが上昇トレンドになっています。もともとEUは、リーマンショックよりも以前からインフレ懸念のある国がある事も影響しているのですが、今年に入ってのギリシャ問題が表面化した事等により、信用不安を和らげるために一時的に紙幣供給してるのでしょうか?ECB(ヨーロッパ中央銀行)が量的緩和へ舵を切ったので、今後おそらくEUのマネタリーベースの上昇ペースが上がるような気もします。

中国についても、特段大きな変化はありません。中国は、もともと2月に旧正月を迎えるため1月は消費が大きくなることにより、1月のマネタリーベースが大きくなる傾向があります。しかし、中国はここ数年は毎年20%近くの名目GDPが上昇しているにもかかわらず、マネタリーベースの伸びはそこまで大きくありません。これは、一体どう解釈すればいいのでしょうか?この辺りも、時間があるときにゆっくり考えてみようと思います。

そして、最後に日本のマネタリーベースですが、ほとんど増えていません。日本は中国と同様に、12月と3月の経済活動が活発になることより、毎年12月と3月にマネタリーベースのピークができます。アメリカやEUと比較すれば、日本銀行の金融政策は「静観」が続いていますね。これを「無策」と見るか「日本の金融は正常なので、あえて手を打つ必要は無い」と見るかは、いろいろと意見の分かれるところかもしれませんが、少なくとも「まだ量的緩和の手段は残されている」という事で、日本は隠し玉を持っていると言えそうです。


しかし、アメリカはマネタリーベースをいつか元の状態に戻すことを考えているのでしょうか?マネタリーベースがこんな状態で、アメリカの景気が本格的に回復してしまう状態になると、市中に大量のドルが出回り始めるために、ドル安がさらに進んでしまうような気がします。あまり考えたくないのですが、今後はアメリカの景気回復が進むとドルの供給過剰で円高が進み、アメリカが景気回復しないと安全通貨への逃避で円高が進むという、どっちに行っても円高が進みそうな気がします。



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posted by きらっち at 21:11| Comment(64) | TrackBack(0) | 経済

2010年07月15日

長い休養でした……

職場の異動と私事でいろいろあり、3月末から更新が止まり申し訳ありませんでした。来週から、再び最近の経済ネタを中心にブログを再開します。以前の更新ペースは厳しいとは思いますが、一週間に3度を目標に頑張ります!

ブログ休止中は、コメント欄やメールで心配してくれる人がたくさんいて、どうもすみませんでした。特に体調が悪くなったわけでもなく、元気ですのでご心配なく。
posted by きらっち at 23:52| Comment(15) | TrackBack(0) | 日記

2010年03月25日

脱官僚

【東大:2983人が卒業 進む「脱官僚」 高まる外資人気】
http://mainichi.jp/select/wadai/news/20100325k0000e040055000c.html

実はこれも省庁によって随分違うのだけど、財務省や外務省のキャリア官僚は今でもほとんどが東大出身じゃないのかな?(少なくとも、俺の代はそうだよね)
ところが、キャリア官僚に東大出身者に偏っているのは事務系キャリア官僚の話で、技術系のキャリア官僚(「技術系はそもそもキャリアとは言わない」という話もありますが)に関しては、もともと東大ばかりでもないんだよね。うちみたいな技術系の局なんかでも、東大出身の人なんて最近じゃ数年に1人程度しか入ってこないもんなぁ。

しかも、キャリア官僚とは聞こえがいいかもしれないけど、お給料がべらぼうに高いわけじゃないし、部署によっては帰宅できない日々が続くし、仕事によってはどんなに良い政策を打ち出しても政治家がうんと言わなければその政策も通らないし、あまり魅力のある商売とも思えないけどなぁ。(笑)
とは言うものの、例えば「経済界」「大学教授」「専門分野」みたいなスペシャリストな人達と仕事上でお付き合いできる、みたいな役得も確かにあるかもしれません。後は、日々いろいろな情報(仕事に直接関係の無い「経済」「外交」「政治」等々)も入ってくるので、いろいろな分野の豆知識は増えるかもしれませんね。(笑)


俺なんかも、「確かに外資系の方がお給料も良いだろうし、帰宅できずに朝まで仕事の日々が続くなんて事もないだろうから、官僚になりたくない気持ちもわかるな」と思います。
日本は諸外国と比較すれば、国の力よりも民間の力が強い国ですので、労働組合や経団連等々が反発するような政策はなかなか理解が得られません。そのため旧自民党政権では思い切った政策がなかなか打てなかったという事もあります。ところが、今の民主党政権の打ち出す政策を見ている分には「政府権限を強めたい」「政策実行に対していちいち根回しなんかしない」という思いもあるようですので、政治主導で優秀な官僚を登用するために何か思い切った事をやれないですかね?
(とはいうものの、支持母体である労働組合から圧力で、多分やれないでしょうね……。)



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posted by きらっち at 23:26| Comment(24) | TrackBack(0) | 仕事

2010年03月24日

亀井大臣の意図はこうだ!

【ゆうちょ銀、上限2000万円 かんぽ2500万円に】
http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/mnews/20100324-OYT8T00384.htm

なるほど。さすがというか何というか、公共事業推進派の亀井金融大臣の事なので、当然これも公共事業を見据えた政策ですね。
まだ亀井大臣も本音を見せていない段階なので、あくまで個人的な憶測ですが、預け入れ額の上限引き上げによって、その増えた金額の一部を公共事業の原資にしようと思ってるのだと思います。


みなさんもご存知のように、バランスシート不況時は個人が株や債権等への投資をしなくなるために、銀行への貯蓄額が積み上がります。ところが民間銀行の方も、バランスシート不況時は極度にリスクのある投資を嫌がるので、結局は安全資産である日本国債を購入しているわけで、この結果日本の民間会社には資金が行き届きません。
となると、結局こういう状況ではお金をバンバン支出できるのは国しかなくなるので、今までは国債発行を原資として政府支出によって景気を支えていたわけですよ。その結果、家計貯蓄額がどんどん積み上げる一方で、政府負債もどんどん積み上がって、家計資産と政府負債のアンバラが拡大し続けたわけですね。


さて、この状況でゆうちょ銀行とかんぽの預け入れ限度額を上げたらどうなるでしょうか?当然、これによってゆうちょ銀行とかんぽへの預け金額は増えます。一方で、民間銀行への預け金額は減るでしょうね。(なので、民間銀行は↓のように、当然反対するわけですが。)

【郵政改革法案、政府関与残るなら郵貯の業務拡大「断じて許容できない」=全銀協】
http://jp.reuters.com/article/marketsNews/idJPnTK038927820100324


ところがゆうちょ銀行やかんぽは、積み上がったお金の一定割合を公共事業みたいなものへ投資できるようなシステムができるとすると、

@家計の過剰貯蓄が民間銀行を通して国債に振り向けられていたものが、ゆうちょ銀行やかんぽを通して公共事業へ支出される。

Aしかも、この公共事業の原資は家計貯蓄なので、国の財政負担は無い。

という事で、直感的に考えると、このやり方であれば財政支出を行うことをせずにバランスシート不況の根本の原因を止められる有効な手段になりそうな気もします。


という事で、明日以降はもうちょっとこの政策のメリット・デメリットを深く突っ込んで考えてみようと思います。



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posted by きらっち at 22:24| Comment(17) | TrackBack(1) | 経済

2010年03月23日

日本で一番理にそぐわないことをする政党

【生方氏の解任、細野副幹事長「党にダメージ」】
http://www.yomiuri.co.jp/feature/20100116-014762/news/20100321-OYT1T00580.htm

はて、生方さんはそこまで悪いことしたんでしょうかね?というか、どこぞの幹事長は法律的に限りなくグレーゾーンに近い容疑で検察の取調べを受けたり、どこぞの首相にいたっては脱税が確定したにもかかわらず、何のお咎めも無いわけでしょ?
どうやら民主党は、「犯罪よりも反党行為の方が罪は重い」という認識なんでしょうね。


【小林千代美議員、離党も辞職もせず…会見で表明】
http://www.yomiuri.co.jp/feature/20100116-014762/news/20100322-OYT1T00573.htm

↑さらに、渦中の小林議員までこんな状態なんだし、「民主党は、一体何をしたら議員辞職に値するのか?」と一国民として聞いてみたいですよ、ほんと。



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posted by きらっち at 12:45| Comment(11) | TrackBack(1) | 政治

2010年03月19日

今年度は引継ぎが大変

役所によって、多少違うけれども基本的に国家公務員は、2年くらいで違う部署に異動します。俺の場合は、かなり技術的な職場なので異動周期が多少長い事もあり、6年働いているにもかかわらず、まだ1回しか異動していないのですが、この4月でようやく2回目の異動です。

最初の配属先は、ほとんど研究職みたいなものだったので4年間も大学の延長線上の生活でしたが、次の2年間(現在の部署)は「法律改正」「政策評価」等々の仕事する役人部署でした。そして4月からは、再び技術的な仕事をする事になりそうです。

さて、どの部署にいてもそうですが、異動の際は引き継ぎ資料を作ります。実は今年に関しては、この「引継ぎ資料の作成」がかなりの曲者になりそうなので、今から頭を抱えていたりします。というのも政権交代に伴って、従来からの仕事のやり方が変わってしまったために、今まで代々引継がれていた資料を全面的にリニューアルしなければいけません。しかも、現政権からの官僚側に依頼されるいろいろな作業は、大抵は〆切直前まで作業内容は明らかにされないので、まだ動いていない案件(例えば事業仕分け第2弾とか)を引継ぎ書にどう書いていいやら困るんですよぇ……。


4月からはあまり政治や経済とは関係のない部署なのですが、7月の選挙結果によってはまたまた仕事のやり方が大きく変わるんでしょうかねぇ……。どうなることやら。



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2010年03月18日

ファーストフード店における電子マネー考察

マクドナルドなんかは「Edy」「iD」「WAON」なんかを使えたりしますけど、モスバーガーでは電子マネーを使えません。という事で、今日はそれぞれのファーストフード店が、「どうして電子マネーを導入したのか?」「どうして電子マネーを導入しないのか?」について、いろいろ考察してみて各社の戦略を推測してみましょう。

まずは、電子マネーを導入する「メリット」と「デメリット」について思いついたところをあげてみます。

【メリット】
1.電子マネーを持っている客の囲い込める
2.決裁時間短縮とレジ打ち間違い防止
3.お客の購買データをマーケッティングに活かせる
4.レジに多額の現金を置かずに済む

【デメリット】
5.電子マネー発行会社に手数料を取られる
6.電子マネーリーダの設備投資が必要になる
7.現金化までに時間がかかる
8.店員に電子マネー決済の教育が必要になる

まぁ、細かいものもありますが、こんなところですかね?さて、それではこれらのメリット/デメリットから、マクドナルドとモスバーガーの戦略の違いを読み取ってみましょう。


まずは、マクドナルドについてです。マクドナルドの場合、商品単価があまり高くないので、お客が会計にもたついてしまうと回転率が落ちてしまいます。特にマクドナルドは、後ろの厨房でたくさんの人がハンバーガーやポテトをジャンジャン作っているので、モスバーガーみたいに一つ一つを注文を受けてから作っているようなお店と比べれば、商品の供給能力は大きいでしょうね。よって、レジの客を可能な限り早い時間で処理しないと、厨房のスタッフの手が空いてしまう時間ができるわけです。よって、手数料や設備投資費を含めても、電子マネーを導入するメリットの方が大きいのだと思います。


一方、モスバーガーの方は厨房にマクドナルドみたいに厨房にそこまでにスタッフがいるわけでもないし、注文毎に調理していて商品の供給能力が高くないために、下手に会計時間を短くしてもお客の待ち時間が増えて、お客の不満度を高くするだけの可能性が大きいと思います。確かに、電子マネー導入でモスバーガーに来店する人も増えるとは思うのだけど、モスバーガーはマクドナルドと違って薄利多売のビジネスモデルを採用しているわけではないので、電子マネー導入のデメリットの方が大きいと判断していると推測されます。


そんな中で、したたかな戦略を採っているので「スタバ」です。スタバの場合も、基本的にはモスと同じで「薄利多売」のビジネスモデルを採用していない事は、皆さんもご存知の通り。なので、「電子マネーは導入していない」と思いきや、実は↓の通りスターバックス店舗のみ有効な「スターバックスカード」なる独自のプリペイド型の電子マネーを展開しています。

【スターバックスカード】
http://www.starbucks.co.jp/sbcard/index.html

このスターバックスカードによるメリットとデメリットを考えると、以下のような感じですかね?

【メリット】
A.自社発行の電子マネーなので手数料等はかからない
B.プリペイド型なので、商品引き換え前にお金が入ってくる

【デメリット】
C.設備投資がかかる
D.運用費用がかかる

スターバックスは、全国で875店舗(2010年3月期)もの店舗数があるので、費用に関するCとDのデメリットは規模の経済を利用して最小限に抑えられます。一方で、最大のメリットはBでしょうね。プリペイド型の電子マネーは、時間軸で考えると「商品とお金の同時交換」ではなく、「先にお金をもらって後で商品を出す」という事で、スターバックスの資金繰りを良くする事ができるわけですよ。しかもAのメリットの通り、自社で電子マネーの発行/運用を行っているので、チャージされたお金が他社に流れるわけではありません。そして、おそらくスターバックスはお客のリピーター率の高そうな気がするので、意外にスターバックスカードを使った会計率って高いような気がします。

このように、スタバは「薄利多売」路線ではありませんが、自社発行の電子マネーによって「お客の囲い込み」や「決済時間の短縮」だけでなく、「資金繰り支援」のメリットを一番に求めているのだろうと俺は思っています。さすがにスターバックスはアメリカの企業だけあるので、この辺の金回りの話になると、「良い着眼点してるなぁ」と思いますよ。


という事で、ここ一週間「マクドナルド」「モスバーガー」「スターバックス」に通って、客席からずっとレジを見ながらいろいろと考えていた事を、書いてみました。(笑)
あくまで俺の推測ではあるので、実際にそれぞれの会社がどう考えているのかはわかりませんけどね。



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2010年03月17日

固定電話の衰退

今日は、総務省の「家計消費状況調査」から1世帯が1ヶ月に支出する通信費について調べてみましょう。


household-consumption_worker.jpg
↑が、通信費における1世帯当たりの1ヶ月間の支出となっています。なお、ここでの世帯とは「二人以上で世帯主が勤めている世帯」です。という事で、多少限定された世帯での話ですが、これを見ると「固定電話」の衰退ぶりがよくわかります。しかも、2009年12月には「インターネット接続料」が「固定電話使用料」を初めて抜いたわけで、何だか時代を物語っていますねぇ……。


ちなみに、俺の大学時代の研究室は教授がNTTの研究所出身者で、10年前くらいに「近い将来、固定電話じゃ儲けられなくなるので、NTT東日本やNTT西日本は違うビジネスモデルを考えないといけない」と言ってた事を思い出します。
何せ今は、固定電話の無い家が珍しくなくなってしまいました。俺の周りの同年代では、既婚者の人ですら「家には固定電話引いていない」という方もいるんですよね。俺も3年前までは固定電話を契約していたのですが、今となっては電話回線が無くても「ケーブルテレビ」や「携帯電話」等々でも、それなりの通信速度でインターネット回線が確保できるので、固定電話の回線を持つメリットが見出しづらいのも事実です。そして、発展途上国なんかでは、固定電話が普及する前に、すでに携帯電話の方が普及していたりもしますよねぇ。
固定電話がすぐに消える事は無いとは思いますが、この先どんどん回線数が少なくなるでしょうねぇ。

そういえば、昨年だったか一昨年前の話ですが、俺の友達の子供(当時3歳か4歳)に黒電話を見せる機会がありました。その時「これは昔の電話だよ」と言ったら、その子供はダイアルを回すのではなく、ダイアルを押していた事にびっくりした記憶があります。(確かに今となっては、「サザエさん」くらいでしか黒電話を見る事がなくなった気もします。)


話の脇道にそれるついでにもう一つ書きますが、固定電話以外に「公衆電話」もNTTの悩みの種らしいです。というのも、「一定の密度で一定の数の公衆電話を必ず設置しなくてはいけない」という法律のせいで、NTTは公衆電話を撤去したくても撤去できない一方で、公衆電話網の維持費がそれなりにかかるので大変だそうです。
そういえば、俺がまだ高校生の頃の携帯電話普及期に、家に電話かけるために公衆電話で電話してたら、その隣で見せ付けるように携帯電話を取り出して通話していた人がいましたが、今じゃそんな事も無くなったなぁ……。



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2010年03月16日

常識を覆す話

【絶縁体に電気信号伝送 電子の自転活用 東北大グループ】
http://www.kahoku.co.jp/news/2010/03/20100311t15018.htm

常識を覆される研究なので、そのうちノーベル物理学賞も十分狙えるかもしれませんね。
という事で今日は、「電気を流さない絶縁体」に対して、何故本研究で電気信号が送れたかを説明しましょう。


200912_iceland_foreign-reserves.jpg
↑が、「通常の電流伝送」と「本研究での電気信号伝送」との違いです。
「通常の電流伝送」の方は、入力側(正極)に電気をかけると金属・半導体中の負電荷を持つ電子が引き寄せられます。この電子の移動によって電気が流れるわけで、直感的にイメージしやすいとは思います。ところが、「本研究での電気信号伝送」は負電荷を持つ電子が動くわけではないために、何故電気信号を送れるのかまったくイメージができません。これを理解するためには、「スピン波」と「磁場」の知識が必要となります。


【スピン波について】
という事で、まずはスピン波の性質について説明しましょう。電子は原子核の周りを回っている(公転している)のは皆さんもご承知の通りですが、実は電子は公転だけではなく自転もしています。(正確には自転ではないのですが、自転と考えてもあまり矛盾は出ないので、このまま自転で説明します。)この自転の事をスピンと言って、このスピンには向きが定義されています。(電子の自転が「右回り」か「左回り」か、というようなイメージ)実は過去の研究から、このスピンの向きがその物質の磁性と密接に関係する事がわかっています。
そして、スピン波とは↑の図のように、絶縁体である磁性ガーネットに電気を流すと、この磁性ガーネット中の電子のスピンの方向(自転軸の向き)が変わるわけです。このスピンの方向(自転軸の向き)の変化が、あたかも磁性ガーネット中を波のように伝わっていくので、この現象を「スピン波」と言っているわけですよ。


【磁場について】
実は、「電気」と「磁気」は密接に関係しています。というのは、「ある場所に電気が流れる=その場所の磁場が変化する」という物理法則があるからです。つまり、以下の@とAが自然界の法則としてあるわけです。

@電流が流れる→磁場が変化する
A磁場が変化する→電流が流れる


これで、ピンっと来た人もいるのではないでしょうか。
【スピン波について】で説明しましたが、磁性ガーネット中を伝わるスピン波はスピンの方向(自転軸の向き)を変えるため、反対側の電極でAの法則を利用して磁場変化を電流に変換しているって事ですね。
注意しなきゃいけないのは、あくまで「絶縁体である磁性ガーネット中で電気が流れている」というわけではなく、「磁性ガーネット中の電子スピンを介して、反対側の電極で電流を発生させてる」というわけですよ。



このメカニズムを利用して、電気回路等にいつ応用できるのかはわかりませんが、とりあえず次なる目標は「安くて相性の良い電極と絶縁体探し」ですかね。
是非とも事業仕分けで本研究の予算が削られないことを望みます……。



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posted by きらっち at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 科学

2010年03月15日

アイスランドの経済状況〜その3〜

@【預けたお金を返してくれない国】(2010年03月09日)
http://kiracchi-serendipity.sblo.jp/article/36178549.html

A【アイスランドの経済状況〜その1〜】(2010年03月10日)
http://kiracchi-serendipity.sblo.jp/article/36221661.html

B【アイスランドの経済状況〜その2〜】(2010年03月11日)
http://kiracchi-serendipity.sblo.jp/article/36245835.html

というわけで、ちょっと間が開いてしまいましたが、↑の@ABに引き続き、今日はアイスランドの外貨準備高と対外債務を見てみましょう。


200912_iceland_foreign-reserves.jpg
まずは、↑の外貨準備高についてみてみましょう。アイスランドの外貨準備高は、リーマンショック前までは25億ドル程度で安定していましたが、リーマンショック後に一気に35億ドル程度にまで増加しました。アイスランドは、2008年10月にIMFに2年間で20億ドル程度の緊急融資を得ることで合意したので、本来であれば徐々に外貨準備高が減るところだと思いますが、現状では外貨準備高が減っているようには見えません。ただし、2年間のIMF融資期限は今年の10月くらいに切れるわけで、その後アイスランドはIMFの融資が無くて大丈夫なんですかね?おそらく、IMFの融資は継続する事になるのではないかと思うのですが。
そして、↑のグラフからアイスランドの外貨準備高は、そのほとんどを外国通貨で運用している事がわかります。おそらく、ユーロやドル建ての債券なんかで運用しているのでしょうね。


2009Q4_externel-debt_iceland.jpg
そして、↑はアイスランドの対外債務です。
ちなみに、こんな推移をしている国はなかなか見る機会はないでしょうね。というのも、2007年Q1〜2009年Q4のわずか3年間の間で、「対外債務の合計」が3倍になった事がわかります。これは、通貨暴落した影響でしょうけど、それにしても長期債務が2倍程度に留まっていて2009年Q2をピークに減少している一方で、短期債務の増加が止まらず2007年Q1から7倍近くに膨張しています。つまり、短期でしかお金を借りれずに資金繰りがカツカツの状態になっている事がわかります。
しかも2009年Q4現在で、対外債務のうちの70%以上が「国内破綻金融機関の債務」であるので、アイスランド国民としては「破綻した金融機関の債務は返済しない」と言いたくなる気持ちもわからなくはないですねぇ……。(笑)


という事で、実際にアイスランド対外債務の対名目GDP比や対外貨準備高比がどうなっているかというと、↓の通りです。
2009Q4_edr-iceland.jpg
まずは、アイスランド全体で見ると、2009年の時点で対外債務対名目GDP比は1000%を超えていて、対外貨準備高比だと3000%ですよ!うぅ、アイスランドはどうやって名目GDPの10倍もの対外債務を返済する気なんですかね?俺がアイスランドの国民であれば、この数字を見るだけで絶望的になるだろうなぁ……。
ただし、アイスランドは民間銀行の対外債務はとんでもない事になっていますが、「アイスランド政府」の対外債務となると、2009年時点で対名目GDP比が44%、対外貨準備高比で135%となります。ただし、対外債務でも短期のものにしぼれば、対外貨準備高比で14%程度であるので直近でアイスランド政府が破綻する事はなさそうですね。
とは言うものの、政府の対外債務が名目GDP比で44%という水準で、その上外貨準備高比が100%を超えているので、危険な香りはぷんぷんします。(ちなみに、2009年時点での日本政府の対外債務の対名目GDP比は13%、対外貨準備高比が68%程度)


アイスランドはしばらくIMFにお世話になるか、他の大口スポンサーが現れない限りは、名目GDPの10倍もの対外債務の返済で、今後数十年は借金の返済だけでいっぱいいっぱいでしょうね。(「対外債務を踏み倒さない限り」という条件付の話ですが……)とは言え、アイスランドは人口が少ないので実際の債務額で言えば大した額ではありません。
アイスランドは、資源がたくさん眠っている北極圏へ進出する際の拠点となり得る国であって、しかもアメリカとロシアの中間国に位置する地政学的にも重要な場所なので、見方によってはお買い得物件にもなり得る国でもあります。今は、IMFの融資で何とか持ちこたえていますが、そのうちアイスランドを巡って「アメリカ」「ロシア」、そして「中国」辺りが表立っていろいろと何か仕掛けるのではないかと、俺は見ています。ちなみに「日本」は、アイスランドを支援するメリットがあまり無いために、おそらく静観じゃないかなぁ……。



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posted by きらっち at 23:20| Comment(2) | TrackBack(0) | 経済

2010年03月11日

アイスランドの経済状況〜その2〜

@【預けたお金を返してくれない国】(2010年03月09日)
http://kiracchi-serendipity.sblo.jp/article/36178549.html

A【アイスランドの経済状況〜その1〜】(2010年03月10日)
http://kiracchi-serendipity.sblo.jp/article/36221661.html

というわけで、↑の@とAに引き続き、今日はアイスランドの国際収支の推移を見てみましょう。

まずは、最初にアイスランドの直近の経済情勢について説明しておきましょう。
リーマンショック前のアイスランドは、「自国の高金利を餌に外国からの預金や投資を集めたり、海外からの外貨建て借り入れを元手に金融派生商品を買い漁って運用する」というビジネスモデルを採用していました。サブプライム問題が起こる前までは、この戦略はズバリ的中し、アイスランドは国民一人当たりのGDPが5位になるまでに経済成長を遂げ、リーマンショック直前にはアイスランドの全銀行の資産総額はアイスランドGDPの10倍近くまで膨れ上がったわけです。ところが、リーマンショックが起こってアイスランドに預金や投資をしていた人達が、一斉にその資金を自国に引き上げようとしたために、アイスランドの銀行は資金繰りが追いつかずに破綻して国有化されてしまったわけです。(とはいうものの、アイスランド政府の破綻はまだしていません。)
つまり、アイスランドは「物」や「サービス」の取引でお金を稼ぐのではなく、(悪い言い方をすると)外国から流入するお金で飯を食べていただけなのですよ。それを踏まえた上で、↓の国際収支を見てみましょう。


2009Q4_bop-iceland.jpg
という事で前置きが長くなりましたが、↑が2007年Q1〜2009年Q4までのアイスランドの国際収支です。いつもは、項目毎に説明してましたが、今日は時系列で説明します。

まずはリーマンショックが起きる前までですが、先ほど説明した通りアイスランドには「物」や「サービス」の取引で稼げる手段がないので、「経常収支」はマイナス収支になります。一方で外国からの預金や投資を得意としていたので、アイスランドは「資本収支」の方でプラス収支としてファイナンスしていたことになります。
実際に「経常収支」を詳しく見てみると、2008年Q3のリーマンショック前まで「貿易収支」「サービス収支」「所得収支」「経常移転収支」の全項目のほとんど全ての時期で、マイナス収支を記録しています。ちなみに、最も足を引っ張っていたのは「所得収支」ですが、この「所得収支」の赤字要因は海外への利子や利回りの支払いです。アイスランドは、高金利で海外からのマネーを調達できたところまでは良かったのですが、高金利で集めた故に利子や利回りの支払いもかなりの負担になってたわけですね。
一方で、2008年Q3のリーマンショック前までの「資本収支」ですが、基本的にはプラス収支で推移しています。ところが、詳しく見ていくと「資本収支」での稼ぎ頭は「その他投資」である事がわかるかと思います。実は、この「その他投資」のプラス要因は、「海外からの借り入れ」や「外貨建て債券発行」によって得たお金なんですよ。つまり、アイスランドは負債を増やして資本収支がプラス収支になっているに過ぎません。そりゃ、利子や利回りの支払いで大変になるわけですよ。(笑)
そして、時期によって変動が激しいのですが、2008年Q3のリーマンショック前までの「直接投資」や「証券投資」のマイナス分は、アイスランドから外国への投資が多いことに起因するものです。ちなみに、2007年Q4の「直接投資」が一気に-6000億クルーンを記録した要因は、アイスランドのカウプシング銀行がオランダの投資銀行を買収した事に起因したものと推測されます。


そして、2008年Q3以降のリーマンショック後は、アイスランドの国際収支ががらりと変わります。
先日のAのエントリーでも同じ趣旨の事は書きましたが、通貨暴落によって「貿易収支」と「サービス収支」がプラス収支になり、経常収支の赤字幅が縮まってきました。「所得収支」のマイナス幅が大きいので、アイスランドが今後恒常的に経常収支をプラスにできるかどうかはわかりませんが、金融依存を脱却するためにも、何とか「貿易収支」と「サービス収支」のプラス幅を拡大したいところです。
一方で「資本収支」の方ですが、数字上ではわかりませんが「直接投資」と「証券投資」の収支の中身に変化が出てきました。というのも、リーマンショック前までは、アイスランド国内から外国株や外国債券を買っていた事で、「直接投資」と「証券投資」がマイナス収支だったのですが、リーマンショック後は外国資本がアイスランド株やアイスランド債券を売ってアイスランドからの引き上げを始めたことにより、「直接投資」と「証券投資」のマイナス収支が悪化しました。一方で、「その他投資」は相変わらず「海外からの借り入れ」や「外貨建て債券発行」によってプラス収支を維持しているわけです。

う〜ん、アイスランドは通貨暴落して、国内銀行が軒並み国有化された上に、外資までアイスランドから逃げ出したにもかかわらず、結局は未だに外国から調達したお金に頼っているわけで、この辺りのやり方をチェンジしない限りは、アイスランド経済の根本的な状況改善は見込めないような気がします。そもそも今のやり方でも、お金を貸してくれる国もだんだん少なくなりそうな気が……。(っていうか、現状の「その他投資」はIMFが貸してる分なんですかね?)


という事で、アイスランドの国際収支を見てみましたが、やはり非常に厳しい状況です。(というか、絶望的状況と言った方が近いかもしれません)
「経常収支」が安定的にプラスにならないどころか、今もって海外からの資金調達に頼っているわけで、巨額の利子や利回りの支払いが今後もしばらく続きそうなのが不安要因ですね。
しかも、「経常収支」の収支額と「資本収支」の収支額の差がありすぎるので、「貿易収支」「サービス収支」の黒字幅を今よりも10倍とか20倍にしない限り、外国からの資金依存の問題は解決できないでしょうねぇ……。



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posted by きらっち at 22:50| Comment(9) | TrackBack(0) | 日記

2010年03月10日

アイスランドの経済状況〜その1〜

【預けたお金を返してくれない国】(2010年03月09日)
http://kiracchi-serendipity.sblo.jp/article/36178549.html

という事で、昨日の予告どおり今日〜明後日は三回に分けてアイスランドの経済状況を「GDP」「国際収支」「外貨準備高」「対外債務」の推移を追いながら、いろいろと見ていきましょう。
今日は「GDP」、明日は「国際収支」に着目してアイスランドの金回りを調べることにして、明後日は「外貨準備高」「対外債務」を調べて債務状況と破綻可能性を考察します。

さて、まずは名目GDPと実質GDPを見てみましょう。アイスランドの実質GDPは何年の物価を基準にしているのかわからないのですが、名目GDPと実質GDPの数値が大きくかけ離れている上に、ここ最近の物価上昇率が非常に大きいので、まずは物価上昇を除去した実際の経済規模を示す実質GDPから考察してみます。


2009Q4_realGDP-iceland.jpg
↑が2007年からのアイスランドの実質GDPです。実質GDPを見ると、アイスランドの絶頂期は2007年Q3でした。元々アイスランドは、金融自由化を推し進めて、海外からお金を流入させて経済発展させていたわけですが、サブプライム問題やリーマンショックを機に、外資が逃げ出して凄まじい状況に追い込まれた様子が読み取れます。

GDP項目の中で一番ダメージの大きい物は「民間住宅」と「民間設備投資」ですね。「民間住宅」にいたっては、2009年Q4現在でも底が見えないばかりか、最盛期だった2007年Q3の水準のわずか18%程度ほどに激減しています。そして「民間設備投資」は、2009年Q1で底を脱したかのように見えますが、この時期は最盛期2007年Q3の水準のわずか20%程度にまで急減しています。さらにアイスランドが非常にまずいのは、「最終民間消費支出」まで急減してしまっていることです。2007年Q4の最盛期と比較すれば、2009年Q2は75%程度に落ち込みました。ただし、2009年Q3以降も「最終民間消費支出」の回復力は弱く、以前の経済状態まで戻るのは非常に長い時間を要することになりそうです。

一方で、「政府最終消費支出」の方はそこそこ踏ん張っているのですが、アイスランド政府も財政的には余力がほとんどないために、「公的固定資本形成」はボロボロの状態です。ただ、仮に財政的な余力があるにしても、アイスランドみたいに人口が少なくて、国土も狭い上に、可住地域が島内の特定箇所しかないような小国の場合は、公共事業を増やすにしても、どんな公共事業が考えられるのですかね?

そして「純輸出」だけは、収支が改善しています。元々アイスランドは輸入超過の貿易赤字国だったのですが、(ここでは、純輸出の内訳はグラフに出してはいませんが)通貨クローナの暴落を追い風に「物の輸出」「サービスの輸出」共に堅調に増加しています。一方で、「物の輸入」「サービスの輸入」は減少しているために、リーマンショック後にアイスランドは突如として貿易黒字国に転換しました。(輸出も輸入も減少した韓国とは、状況が少し違うようです)しかも2009年Q4現在では、GDPの10%以上を純輸出が占めるようになっていますが、輸出については増加ペースがまだ頭打ちになっていないので、まだ「純輸出」は増える可能性が大きいと俺個人は思っています。


2009Q4_nominalGDP-iceland.jpg
さて、次は物価影響を加味しない↑の名目GDPを見てみましょう。まずは、2007年Q1と2009年Q4の名目GDPと実質GDPを比較してみましょう。実質GDPの方は、2007年Q1も2009年Q4も、およそ2190億クローナ程度でほぼ同じですが、名目GDPの方は2007年Q1でおよそ3000億クローナ、2009年Q4でおよそ4000億クローナとなっているので、すごい大雑把に言えば、この3年間で物価はおよそ33%程度のオーダーで増加した事が読み取れます。
そのせいか、実質GDPでは大きく減少して回復が進んでいない「最終民間消費支出」が、名目GDPの方ではすでに最盛期の水準に戻りつつあったりして、まったく別の統計に見えたりしますね。ただ「民間住宅」は、名目GDPを見ても実質GDPを見ても、瀕死の状況であるのは一目瞭然ですがなのが……。


という事で、GDPを見る限りアイスランドは、インフレの影響が強い上に「最終民間消費出」「民間設備投資」「民間住宅」が激減したわけで、非常に経済状況が苦しくなったのではないでしょうか?とは言うものの、インフレが進み外資が逃げ出し、アイスランドは自国通貨価値が暴落した事によって、輸出増加を促して貿易赤字国から貿易黒字国へと転換しました。
ちなみにですが、2009年Q4現在のアイスランドは、名目GDPの10%以上を純輸出で稼いでいて、輸出額対名目GDP比も50%を超えています。一方で2007年Q1では、純輸出が名目GDPを-11%押し下げていて、輸出額対名目GDP比もわずか36%でした。という事で、今やアイスランドは立派な貿易依存国と言えるでしょう。
ただしこれは裏を返せば、アイスランド国内の内需がボロボロで外需にしか活路を見出せないという事でもあるかもしれません。


昨日のエントリーでも書きましたが、「電力料金が安い」と「通貨暴落した」いうメリットを活かせば、それなりにアイスランドは活路を見出せそうな気はします。そのための資金を外国(特にユーロ圏)に求めるのならば、イギリスやオランダには預金を返す約束をして、あまり彼らを刺激させない方が良いような気もするんですけどねぇ……。



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posted by きらっち at 23:49| Comment(2) | TrackBack(7) | 経済

2010年03月09日

預けたお金を返してくれない国

先週末は単純に更新をさぼっていて、さらに月曜日からは出張で更新滞りすみませんでした。コメントの返信は、今日の仕事が終わってから書きます。


【アイスランド:英蘭預金者保護法案を否決 国民投票で】
http://mainichi.jp/select/biz/news/20100308k0000m030047000c.html

よくよく考えてみればこれもすごい話で、イギリス人とオランダ人がアイスランドの銀行に預けていた預金が引き出せなくなったので、アイスランド政府が肩代わりして「イギリスとオランダ分の預金の払い戻しをしよう」という法案が否決されてしまったわけですよ。
そりゃイギリスやオランダから見れば、「アイスランドの銀行は泥棒か詐欺師と同じじゃねぇか!」って事になりますよねぇ……。

確かに、「借りたものは返す」ってのは世の中の鉄則です。ただし、民間会社の場合は破綻によって債務整理ができますけど、さすがに銀行における対外的な預金や債務に対してはチャラにできるわけでもなく、アイスランドはどうするつもりなんですかね?


そもそも、アイスランドは金融立国だったので、リーマンショック後にどうやって国を立て直すかを、今一生懸命考えているところだと思いますが、GDPの4割に当たるイギリスやオランダの預金を返すのは相当しんどいと思いますよ。
ちなみに、アイスランドは電力のほとんどを水力と地熱発電で補っていて、電力料金が近隣EU諸国よりもだいぶ安いという事情があります。よって、多くの電力を必要とする金属精錬(特にアルミニウム)が、今後のアイスランドを支える産業になるのではないかと、個人的には思っています。幸い、EUの工業国であるドイツは自国で金属を産出するわけではなく、どこかの国からの海上輸入に頼らざるを得ません。しかしながら、ドイツ国内での金属精錬は高くつくので、アルミニウム原石をアイスランドに積み下ろし、精錬したアルミニウムをドイツに持っていくのならば、アイスランドもドイツもウィンウィンの関係が築けるのではないでしょうかね?
あとはアイスランドの産業っていうと、従来からの「漁業」「水産加工業」や「観光業」ってところでしょうね。リーマンショック後、アイスランド通貨のクローナは通貨価値が1/3程度に暴落したので、「オーロラ」と「温泉」を売りにして日本人観光客を獲得するという戦略はどうでしょうか?(オーロラの観測時期は、初秋から初春にかけてではありますが)


という事で、バルト3国やギリシャの時と同じように、明日はアイスランド経済や債務に関する数値データを詳しく見ようと思います。



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posted by きらっち at 23:59| Comment(0) | TrackBack(0) | 経済

2010年03月05日

また妙なこと言ってない?

【GDPよりも「幸福度」…新指標、政府が検討】
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20100301-OYT1T01001.htm

俺思うんだけど、GDPっていうのは主観的な要素も無いし、日本全体でどれだけ金回りが良いのかを計る尺度としては、それなりに良い指標だと思うのだけど、現政権はそうは思ってないのかな?
そもそも「幸福度」なんていう、主観的でいくらでも数字のごまかせそうな尺度を持ち出すのは、どうなんでしょうね?例えば、どこかの民間の調査会社が独自の視点に基づいてやるのならまだしも、国として税金を投入して「幸福度」指標を作るなんてのは、いかがなものかと思うのですが。

確かに、「お金=幸せ」では無いと思いますが、日本政府が勝手に「幸福度」なる指標を決めて、日本国民が幸せかそうじゃないかを判断する意味があるんですかね?記事にも書いてあるけど、「ボランティア活動の満足感」なんて、そもそも「ボランティアをやることで幸せになれる人」と「ボランティアするなんてめんどくさい」と思っている人と、いろいろな考え方をもつ人がいるのに。


そして、ここからは俺の個人的な意見なのですが、政府の使命として考えなければいけない事は「国民をできるだけ幸せにすること」ではなく、「国民をできるだけ不幸せにしないこと」の方に重きを置く方が現実的なような気がします。何故かと言うと、「幸せ」の要因は人によって千差万別ですが、一方で「不幸せ」の要因(例えば「貧困」「病気」「差別」等々)はある程度絞れるので、「全員を幸せにする」よりも「全員を不幸せにしない」方が、簡単なような気がするからです。(それでも難しい問題である事には変わりませんが。)
そう考えると、百歩譲って「幸福度」なんて指標を作って、それを上げるための努力をするよりも、「不幸度」の指標を作って、それを下げるために努力する方が、まだ理に適うと思うのですが。(個人的には、そもそもそんな客観的数字に基づかない指標はアウトだと思いますけどね。)


しっかし、GDPを上げて需要ギャップを埋めた後でこういう議論をするならまだしも、現政権は今すぐやるべき事がたくさんあるでしょ?(笑)



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2010年03月04日

フーリエ変換の理解に向けてA

【フーリエ変換の理解に向けて@】(2010年02月17日)
http://kiracchi-serendipity.sblo.jp/article/35351183.html

さて、前回は(離散)フーリエ変換のイメージを書いたのですが、今日は前回言いたかったことを式で表すのではなく、グラフ(絵)で表します。これで、何となく「フーリエ変換が何をしているのか?」というイメージができると思います。

とりあえず、ここでは下記のように16年間分のGDPを考えましょう。ちなみに、もちろんこれは実際のGDPではなく、あくまで例のために用意したものです。
( 479 , 463 , 452 , 486 , 530 , 496 , 475 , 472 , 488 , 485 , 464 , 430 , 474 , 508 , 497 , 481 )

そして、この16個のGDP系列にフーリエ変換を施すと、↓のように16個の系列を、「ゆっくり変化する成分」(低周波数成分)や「激しく変化する成分」(高周波成分)に分解するわけです。
fourier_exsample1.jpg
ここでは、簡単に説明するために16個のGDP系列に対して5個の成分(基底ベクトル)に分解されて、それぞれの基底ベクトルにある定数がかけられています。この5個の定数が「変換係数」と言って、フーリエ変換された結果(値)となります。

基底ベクトル@の変換係数が1920
基底ベクトルAの変換係数が-50
基底ベクトルBの変換係数が70
基底ベクトルCの変換係数が-20
基底ベクトルDの変換係数が10

ちなみに、この変換係数の符号はあまり重要ではありません。というのも、正負の符号が逆という事は、その基底ベクトルの位相が反転するだけなので、むしろ大事なのは変換係数の絶対値の方です。ある基底ベクトルの変換係数の絶対値が大きいということは、その変換係数だけで大体の原系列の変動が説明できるわけです。
今の例だと、飛びぬけて基底ベクトル@の変換係数が大きいのですが、これはそもそも毎年400兆円〜500兆円の間でGDP系列が変化しているのですから、その分のオフセットを示しています。
そして、基底ベクトルAと基底ベクトルBの変換係数の絶対値が大きく、基底ベクトルCと基底ベクトルDの変換係数の絶対値が小さいため、このGDP系列は「毎年大きく変動するような高周波成分はほとんどなく、わりとゆっくり変化する低周波成分だけで説明できる」という事が言えるでしょうね。という事で、この変換係数に注目すると、「元々の系列の周期性を抽出できる」という利点があります。


fourier_exsample2.jpg
ちなみに、今の例をグラフではなくベクトルで説明すると、↑のようなことになるわけです。

ここでは説明のために、16個の原系列に対して5個の変換係数しか出てきませんでしたが、実際のフーリエ変換ではn個の系列はn個の成分に分解されます。


さて、それでは元々n個の系列を、どのように計算したらフーリエ変換の変換係数を導き出せるのでしょうか?次回以降は、その辺りについて説明します。



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2010年03月03日

日本の完全失業率の推移

【1月の完全失業率4.9%、有効求人倍率も0.03ポイント改善】
http://www.nikkei.co.jp/news/keizai/20100302ATFS0200F02032010.html

ふむふむ。とりあえず、去年の7月をピークに失業率はゆっくり落ちているのだけど、トヨタのリコール問題で自動車産業の雲行きが非常に怪しいし、世界経済の二番底の懸念は消えないし、日本の失業率については今後の見通しが読めないんだよなぁ……。
という事で、今日は完全失業率の「年代別」「性別」によってどう変わるかを見ていきましょう。まずは、男女合わせた年代別の完全失業率推移のグラフが↓になります。

201001_unemployment-rate-japan.jpg
やはり、リーマンショック以降の2008年12月以降で、全ての年代について完全失業率が上がっている事がわかりますね。(65歳以上は増えたかどうか微妙なところかもしれませんが。)

特にひどいのは15歳〜24歳です。この年代の完全失業率は2009年になって急上昇し始めて、およそ9%〜10%の間で推移しています。昨年も今年も、非常に厳しい就職活動だったのではないかと推測されます。
そして、この年代は「月毎の値のばらつきが非常に大きい」という特徴も見られます。これはおそらく、「完全失業率」の定義を考えれば説明がつきます。
「完全失業率」とは

@現在仕事についていない
A仕事を探している
B仕事があればすぐに就くことができる

の3つを満たしている人です。つまり、アルバイトをしている人は@の条件を満たしていないので、完全失業率にはカウントされていないわけですよ。おそらく、15歳〜24歳は派遣も含めて日雇いみたいな仕事をしている方が多いため、調査タイミングによって数字が大きく変わるということでしょうね。

そして、25歳〜34歳も6%〜7%の高水準で推移していますね。ひょっとすると日本だけかもしれませんが、若い年代でこれだけ完全失業率が高いと、結婚する人が減ってますます少子化が進むかもしれませんねぇ。(実際に調べていないけれど、外国はどうなんですかね?若い年代の失業率が増加すると、結婚しなくなるんでしょうか?)


という事で、とりあえず次は↓の男女別の完全失業率を見てみましょう。(↑↓の3つのグラフは、縦軸のスケールが同じなので、見た目の違いが実際の数字としての違いになります。)

201001_unemployment-rate-japan-man.jpg

201001_unemployment-rate-japan-woman.jpg
やはり、女性の方が完全失業率が低くなりました。特に15歳〜24歳については、同じ年代の男性とは非常に異なります。2009年5月までは、男性と同じような推移を辿っているわけですが、2009年6月以降は完全失業率が低減しています。おそらく、女性の場合は就職を諦めて「家事手伝い」となる事により、上記の完全失業の条件であるAが満たされなくなる人が多数出てきたからではないでしょうか?

しかし、男性の15歳〜24歳は物凄い高い値が出てますねぇ。「10人に1人が職を探しててバイトもしていない」というわけで、ここでアルバイトをしつつ就職活動をしている人まで加えたら、結構なパーセンテージになりそうですねぇ……。
普通に考えると、「年収1千万の50歳を1人リストラして、その分若い人を数人くらい雇えばいいじゃん?」と考えてしまうところですが、すでに働いている人をリストラするのはやはり相応に難しいという事でしょうね。裏を返せば、「職を探していて貯蓄の無い若い世代」は、就職難とデフレの直撃をもろに受けているので、この不況の一番の被害者であると言えるかもしれません。とはいえ、外需の急速な回復が見込めないとなると、しばらく日本の失業率も厳しい状況が続くような気がします。

もし俺が就職活動をしようとする立場なら、この怒りをどこにぶつければいいのでしょうか悩むところです。



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