書いてきたのだけど、今日は趣きを変えてミクロ経済学(余剰分析)を書こうと思う。

まずは、中学の公民分野で習った需要供給曲線についてのおさらい。↑の画像に需要供給曲線の例を出した。(図の簡略化のため、需要も供給も今は直線で書いている)とりあえず何の市場でもいいのだけど、ここでは「缶ジュース」で考えてみるか。
最初に需要曲線に関して見てみよう。価格が下がれば下がるほど、数量が増えるわけなんだけど、これは「缶ジュースの値段が下がれば欲しい人がたくさん出てくる」という事を意味している。一方、供給曲線の方は価格が上げれば上がるほど、数量が増える。これは「高く売れるのであれば、缶ジュースを売りたい人がたくさん出てくる」という事を意味している。このような自由な市場では、需要曲線と供給曲線の交点(均衡価格と均衡取引量)で、価格と取引量が決まるわけだ。
確か、ここまでが中学の公民で勉強した範囲だったような記憶がるのだが、ここではもう少し考察してみよう。

↑の画像は、缶ジュースを例にして、「需要者側の総余剰」と「供給側の総余剰」を図示したものである。需要者側の総余剰とは、一言で書けば、「缶ジュースを購入した人がどれだけ得をしたのか?」という事である。もう少し詳しく書くと、この缶ジュース市場では均衡価格が88円で均衡取引量が250本であるので、88円の缶ジュースが250本売れるわけだ。ただ、需要曲線を見る限りこの缶ジュースを150円で買いたい人が少なくとも1人はいたわけで、その人にとってみれば88円で缶ジュースを買えるのだから差額の62円分は得をする。そして、140円で缶ジュースを買いたい人、130円で缶ジュースを買いたい人も、それぞれ52円、42円分は得をする。このように、全需要者の買いたかった値段と実際の取引価格の差額分が、上記画像の青い領域「需要者側の総余剰」になるわけだ。
供給者側の総余剰の方も考え方は同じで、この市場には、60円で缶ジュースを売りたい人が少なくとも一人はいたわけだけど、均衡価格が88円であるのでこの人が88円で売れば想定よりも28円余分に儲けられる。70円で缶ジュースを売りたい人、80円で缶ジュースを売りたい人は、それぞれ想定より18円、8円の余分に儲けられるわけで、全供給者の売りたかった値段と取引価格の差額分が、上記画像の赤い領域「供給側の総余剰」になる。
経済学的には、この総余剰が大きければ大きいほど、社会的な便益が大きい(喜ぶ人がたくさんいる)という事なので、なるべくこの総余剰の面積を大きくさせたいわけですよ。今日は役人の視点でこの総余剰について考察してみたい。
さて、我々役人が市場に介入する手段として、よく用いられるのは
「補助金」と「課税」というところでしょうか?最近で言うと、景気対策の一環で行われている「エコカーの購入補助」が補助金の良い例だと思う。そして、同じく車関係で課税となれば「ガソリン」ですかね?という事で、需要供給曲線での総余剰に関して、「補助金」「課税」を施すと何が起こるのかを以下で考えてみたい。

まずは、補助金の方を考えてみよう。↑に補助金導入前の需要供給曲線と、補助金導入後の需要供給曲線を示す。さて、導入前後によって需要側/生産者側の余剰がどうなるだろうか?
まずは、需要側の方から見てみよう。補助金政策の場合は、消費者に代わって一部を政府が払うものであるので、補助金分だけ需要曲線が上方にシフトする。すると、シフトした分だけ需要が増えて均衡価格と均衡取引量が増加するわけだ。その分、需要側の余剰(青い部分の面積)も増加することがわかる。
さて、供給側の方はどうなるだろうか?補助金効果によって、均衡取引量と均衡価格が増加する事により供給側の余剰も増加する事は容易に想像はつくし、実際にグラフもそうなることを示している。
ちなみに、補助金導入後のオレンジの領域が、補助金によって増加した供給側の余剰なんだけど、供給側は何もしなくても補助金政策によってこのオレンジの領域の面積を増やせるわけで、非常においしい展開なわけですよ。つまり、あまり補助金を出しすぎると、業界全体が自助努力しなくなってしまう事に注意が必要なわけだ。
ちょっと話が脇道にそれるけど、補助金政策が失敗する例を挙げておこう。今まで例に出してきた需要供給曲線は、価格弾力性のある場合の例である。価格弾力性とは、グラフ上で言うと需要曲線や供給曲線の傾きが大した事の無い場合の事である。市場の種類によっては、価格弾力性が非常に小さい(需要曲線や供給曲線の傾きが大きい)場合があって、この時の補助金政策は上手く行かない場合がある。

例えばある地区の「住宅」を考えてみよう。基本的に、缶ジュースとは違って住宅の場合は気軽に買える物ではないし、供給量も少ないので、供給曲線の傾きが非常に大きい。よって、住宅に対する補助金政策の場合は↑の画像のように、補助金によって供給曲線が上方にシフトしても、需要側の余剰はほとんど増えない。
一方、供給側の余剰は需要曲線の上方シフト分だけ増加するわけで、これは結局需要側への余剰増加が無く、供給側へほとんどそのまま補助金が流れてしまう事を意味している。
この手の市場に補助金を突っ込んでも、「供給側を喜ばせるのみ」
という失敗例の代表であるわけですよ。
さて、話を戻して次は「課税」について考えてみる。ここでは簡単のために、缶ジュースに需要側、供給側共にそれぞれ税金32円、8円を課すケースについて考える。

上記の画像のように、課税後は需要側は32円の負担が出るために、当然課税前よりも缶ジュースの需要が250本から200本に落ちる。一方で、供給側の方も8円の負担により、供給量が200本に落ちる。この時、需要側、供給側のそれぞれの余剰は課税前よりも当然どちらも減り、その代わり今まで余剰領域だった場所に「課税による税収」が出現する。政府はこの面積分の税収が得られるわけだ。
ただ、課税によって均衡取引量が落ちることで、課税前は余剰領域だったのに、課税後は税収にもならない「失われた余剰」の領域が出てくることがわかる。これは、課税によって市場規模が縮小することを表していて、政府が余計な事をするとろくな事にならない代表例であると言えるだろう。(笑)市場に介入する場合は、なるべく「失われた余剰」は小さくするようにするのが望ましい。
と長々書いてしまいましたが、政府の介入(補助金、課税)によって市場がどうなるのかをミクロ経済学で考えると、大体上記のような事態を生じることになるわけです。
おそらく政府機関も、何か市場に介入する政策を打つ場合には、この手の分析を必ずやっているはずなわけで、その辺は適当に決めているわけではないと思う。(先生方が分析結果抜きでいろいろ口を出す事はあるとは思うけど)
ただ、俺の疑問は「どうやって需要供給曲線を算出しているのか?」って事なんだよね。例えば、ある程度の精度の需要曲線は、民間会社が各自のマーケッティングによってそれぞれ持っているとは思うのだけど、政府として何か政策決定する場合に、こういう需要供給曲線のデータなんて持ってるのかなぁ……。
まぁ俺が、そういう関係の数字を扱う部署に異動することはまずないのだが、単純に気になるわ。