2009年10月09日

国債発行が円高の維持につながる

今日は、日本の国際収支統計から日本の対外収支状況の凄まじさを見てましょう。そして、日本がそんなに簡単には長期的に円安にならない(なれない)上で、さらに国債発行が円高維持につながる事を説明します。


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↑が2008年1月〜2009年8月の日本の月次の国際収支です。本ブログでは、国際収支統計を度々掲載していますが、復習のために今一度それぞれの項目について説明します。

経常収支とは、日本と海外での金融資産以外でのお金とやりとりで、
「貿易収支(貿易によるお金のやり取り)」
「サービス収支(サービスによるお金のやり取り)」
「所得収支(海外株や海外債券による配当金・利子・利回りによるお金のやり取り)」
「経常移転収支(母国への仕送りや無償援助等、見返りの無いお金のやり取り)」
からなっていて、以下の関係がある。
経常収支=貿易収支+サービス収支+所得収支+経常移転収支

資本収支とは、日本と海外での金融資産に対するお金のやり取りで、
「直接投資(海外子会社等に対する株等の取引)」
「証券投資(海外会社等への株や債券等の取引)」
「金融派生商品(海外とのオプション取引や先物取引等々)」
「その他投資(上記3つ以外のもので、海外との貸付・借入、貿易信用、現預金等の取引)」
「その他資本収支(その他)」
からなっていて、以下の関係がある。
資本収支=直接投資+証券投資+金融派生商品+その他投資+その他資本収支

外貨準備高は、政府や中央銀行の持つ外貨額

なお、「経常収支」「資本収支」「外貨準備高増減」には以下の関係があります。
経常収支+資本収支+誤差分=外貨準備高増減


さて、それではまず経常収支の方を見てみましょう。昨年9月のリーマンショックで、それまで順調だった経常収支が急減して今年1月には経常赤字になってしまいましたが、今年の2月以降は再び黒字基調に戻りました。ただし、経常黒字に一番寄与している項目は、貿易収支ではなく所得収支です。つまり、日本が対外的にお金を儲けている手段は、「貿易」ではなく「海外株や海外債券による配当金・利子・利回り」なわけです。
そして、次は資本収支の方を見てみましょう。直接投資と証券投資は、ほとんどマイナスになっています。日本の場合、2008年9月〜2009年3月はリーマンショックに起因して「日本勢が海外株や海外債券を売り払った」以上に、「海外勢が日本株や日本債券を売り払った」事が主因となり、資本収支が赤字になりました。一方で、それ以外の期間では「海外勢が日本株や日本債券を買っている」以上に、「日本勢が海外株や海外債券を買っている」事で主因で資本収支が赤字になっています。
↑の表だけを見ても、どちらの要因で赤字になっているかは読み取れないので、以下のさらに詳細な直接投資と証券投資の内訳表を読むことで判明します。
http://www.mof.go.jp/bpoffice/bpfdi.htm
http://www.mof.go.jp/bpoffice/bppi.htm

このように、同じ赤字でも「海外勢が日本から手を引く事」による悪性の赤字と、「日本勢が海外の株や債券を買っている」という良性の赤字があるので、この辺りは注意して数字を読む必要があります。ちなみに、日本の資本収支はリーマンショック直後を抜かせば、基本的には良性の赤字です。


さて、この国際収支表を見てみると、

1.経常収支の黒字分は主に所得収支(日本勢の購入した海外株や海外債券による配当金・利子・利回り)が支えている
2.資本収支の赤字分は主に直接投資/証券投資(日本勢による海外株や海外債券の購入)に起因する
3.外貨準備高は常に増加傾向

という事がわかります。これはつまり、「所得収支をもっと増やすために、さらに海外株や海外債券を日本勢が買い進めている。」という事です。日本がすでに貿易国から投資国へ舵を切ったのは、「いくら日本製品の品質が良くても、このまま円高が続けばそのうち新興国との価格競争に負ける」という読みがあったのでしょう。しかも非常に素晴らしい事に、リーマンショックの影響の一番大きかった2009年1月を除いて「経常収支+資本収支>0」の関係(つまり外貨準備高が増える事)が何十年と続いているので、「日本から海外に流出するお金」よりも「海外から日本に流入するお金」の方が多いわけです。とどのつまり、これではなかなか円安にはならないわけですよ。(もちろん国際収支だけで為替レートの決まるわけではありませんが、大まかな傾向を国際収支は示しています)
もう少し刺激的な書き方をすれば、

@所得収支の増加(海外株や海外債券による配当金・利子・利回りの増加)
A直接投資/証券投資のマイナス(海外株や海外債券の購入)
B経常収支+資本収支>0(すなわち外貨準備高の増加)

の3つの関係を保っていけるのであれば、日本の国際収支は当分安泰だし、円安になることはないでしょう。この成長モデルの素晴らしいところは、円高によって所得収支は為替損を被りますが、直接投資/証券投資がマイナスを続ける(海外株や海外債券を購入し続ける)ことにより現地通貨での配当金・利子・利回りは増え続けるので、所得収支の為替損をカバーしてしまえるわけです。



【国債の利回りさえ払えなくなる日はいつ?】
http://kiracchi-serendipity.sblo.jp/article/32620113.html

さらに、先日の↑エントリーで、「長期的な円安が日本国債の投売りにつながる可能性がある」と財務省的な視点で書いたのですが、国際収支を見る限り、今のところ円安になる可能性はかなり薄そうです。
ところで、日本の投資家(金融機関)には、今後も日本国債を買い続けた上で、円高を維持するために「経常収支+資本収支>0」を満たす程度に海外株や海外債券を購入してくれれば良いのではないでしょうか?というのも、この状況で一番怖いのは、逆に日本国債の発行を長期間止めてしまうと、日本の金融機関の余剰資金が長期的に海外株や海外債券に向かってしまい「経常収支+資本収支>0」の関係が保てなくなり、円安を呼び起こして日本国債の投売りされる可能性も出てきます。
つまり、「日本国債の投売りを守るためには、適度に日本国債を発行する必要がある」という事が言えるわけで(しかも日本は、外国に頼らなくてもまだ自力で日本国債を消化できるわけですしね)、果たして政治家の方でこれを理解してくれる方がどの程度いるのか心配です。



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posted by きらっち at 23:15| Comment(3) | TrackBack(2) | 経済