http://sankei.jp.msn.com/economy/business/090918/biz0909181939011-n1.htm
A【日本の海外企業買収3.7倍に/金融危機が追い風に】
http://www.shikoku-np.co.jp/national/main/article.aspx?id=20081108000289
さてさて、ちょっと考えれば当然なのですが、円高になると日本の輸出産業は日本で製品を作っても価格競争力で不利になるために、通貨安の国に工場を建設して生産拠点を移します。世界の景気が良いときは、生産増加が止まるわけではないために日本国内の工場も維持できると思いますが、今の状況だと国内工場は「廃止」か「規模縮小」という事になるので、いずれ失業率上昇という形で跳ね返ってくる事になるでしょう。
今回は、ドル高の要因が見つからない中での円高騒動になっているので、企業は真面目に工場の海外移転を考えているんじゃないかなぁ、と思います。
B【製造業への派遣を原則禁止 労働者派遣法改正案合意で3党共同会見】
http://www.dpj.or.jp/news/?num=16333
そんな中で、現政権は派遣禁止を進めようとしております。もし仮に派遣禁止をやってしまうと、@とAの記事の事を察するに、相当な勢いで製造業の海外移転が始まってしまい、失業率が結構上がってしまうのではないでしょうか?「業界」の味方でなく、「家計」の味方である民主党としての政策判断が難しいところでしょうね。

それでは具体的に↑の「対外直接投資」を見て、数字を追っていきましょう。
「対外直接投資」とは、海外子会社(出資割合10%以上)の株取引等の投資に関する統計で、「株式資本」「再投資収益」「その他資本」の3つから構成されています。
「株式資本」は、株取引の収支の事で、日本の会社から海外の子会社への投資はマイナス、海外の会社から日本の子会社への投資はプラスで計上されます。
「再投資収益」とは、海外子会社の株式等による利子や利回りで未配分のものです。つまり、本来本国に送金されるものですが、未送金で海外子会社で留保しているお金とも言えるでしょう。この項目には、収支という概念が無く、単純に日本の海外子会社からの未送金分がマイナスとして経常されます。
「その他資本」とは、株や再投資収益以外のものの収支のことです。具体的にどんな取引が対象になっているのかはわかりませんが、日本から海外子会社への投資はマイナス、海外から日本子会社への投資はプラスで計上されます。
さて、一番左の列の「対外直接投資」を見てみると、少なくとも2007年からは常にマイナスであるために、海外の会社が日本の子会社に投資するよりも、日本の会社が海外の子会社に対して投資している事がわかります。しかも、リーマンショック直後の2008年Q4は、「株式資本」のマイナスが大幅拡大になりました。これは、海外の会社から日本子会社に投資された流入分よりも、日本の会社が海外子会社に投資した流出分が非常に大きかったためで、海外投資に勢いがついたことがわかります。
やはり、円高が海外移転を後押しする事が数字で示されています。
俺が一つ非常に気になるのは、リーマンショック直後の2007年Q4から「再投資収益」のマイナス幅が縮小している事です。
【海外子会社利益の国内還流促進で法人税非課税化へ−来年度税制改正】
http://www.bloomberg.co.jp/apps/news?pid=infoseek_jp&sid=aB4.KgwKywUI
これは、↑のように前政権で決定した「海外子会社利益の国内還流促進」に関する税制改正による影響が大きいと思います。今の日本は、諸外国よりも法人税が高いために、海外子会社からの還流分は法人税の安い現地に留保させるわけです。この留保分をどんどん日本に還元させるために、前政権が上記の税制改正により海外子会社からの還流分を非課税にしたわけです。
これによって、日本国内で業績の悪くなった自動車会社や電機メーカーの赤字分を、海外子会社の黒字分で穴埋めしているわけです。ただ、これは海外から日本へお金を流入させるわけですから、当然円高要因になります。一説によると、日本の海外子会社が現地で留保している利益は15兆円クラスとも言われているので、仮に全額日本に流入してきたら、とんでもない円高を引き寄せてしまうわけですけどね。

さて、↑に「地域別の対外直接投資」をあげました。これを見ると、リーマンショック直後の2008年Q4に海外投資が激増しましたが、地域別で見ると「北米」の投資額が群を抜いた増加率になっています。円高をチャンスとばかりに、アメリカの有力な会社を日本の会社がどんどん買収したわけですね。同様に、2008年Q4は中南米もガツッと買収しています。こちらは、レアメタルとか食料関係の会社を買収したのでしょうかね?一方、日本は「東欧」や「中東」地域はそんなに投資しているわけではなさそうです。地域的に遠いという事もありますが、結果的に「ラトビア」や「ドバイ」に代表されるやばそうな地域を避けているわけで、日本人の安全志向を表しているのかもしれません。
さて、今日は「対外直接投資」の統計を見てきましたが、今のところ日本企業は状況に応じて理に適った海外投資をしているように思います。一つ心配になる事は、今後国内工場を海外移転しすぎる事により、営業利益を海外子会社からの還流分に依存しすぎて、「円高が止まらなくなる」&「輸出産業が過度に為替レートに依存する(参考リンク@)」という可能性がある事です。元々俺は、「長期的な円安トレンドは日本国債の投売りにつながる」(参考リンクA)と思っているのですが、とは言うもののあまりに急速な円高も困るわけで、可能な限り長期的にゆっくり円高を進行させるのが一番望ましいと思っています。
そういう意味で、果たして現政権がどんな円高対策をするのかが楽しみでなりません。(笑)
参考リンク@【黒字転換したホンダの営業利益の中身】
http://kiracchi-serendipity.sblo.jp/article/32061746.html
参考リンクA【国債の利回りさえ払えなくなる日はいつ?】
http://kiracchi-serendipity.sblo.jp/article/32620113.html
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