2010年07月26日

2010年5月現在の日本と中国の米国債保有状況

さて、今日は日本と中国の米国債保有状況を見てみましょう。


201005_us-treasury.jpg
↑が、2010年6月現在の米国債発行残高と日本と中国の米国債保有状況です。

まずは、米国債発行残高を見てみましょう。アメリカはリーマンショック後、景気対策法(7820億ドル)と金融安定化法(7000億ドル)等々の財源確保のために、ひたすら米国債を刷り続けています。今年の6月には、米国債の発行残高は13.2兆ドルを程度となりました。現在のレート(1$=87円)で円換算すると、これはおよそ1150兆円程度ですかね。
アメリカは2008年1月から2010年6月の二年半で、割合で書くとおよそ43%、金額にしておよそ400兆ドルも米国債発行残高を増やしました。ただし、これだけのペースで米国債を刷り続けているにもかかわらず、↓の記事の通り、10年物米国債の利回りは下がり続けて現在は3%を切っています。

【超長期債利回り低位安定、需要拡大でリーマンショック後の最低視野も】
http://www.bloomberg.co.jp/apps/news?pid=90920018&sid=at8VG2WqUb7I

やはり世界的な不況が続いていることで投資先が少なくなり、安全資産である米国債が買われているということでしょう。通常の経済状況では、誰かが株や社債等に投資することによって、お金が広く世の中に流れて好景気を作り出すわけですが、現在はリスクのある株や債券にはお金が回らず、米国債に資金が集中しているわけです。今はアメリカ政府の支出によりアメリカの景気も何とか持ちこたえているわけですが、今後アメリカの財政再建の圧力が強くなればアメリカも政府支出を絞る事で、お金の出し手がいなくなる事が心配です。

ちなみに、アメリカは↓の記事の通り、1月に1430兆ドルまで米国債発行上限を上げる法案を通しました。とは言え、今の米国債発行ペースであれば、数ヵ月後には再びこの上限値が突破しそうですねぇ……。

【Senate agrees to record increase in debt limit to $14.3 trillion】
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2010/01/28/AR2010012800522.html


さて、それでは日本と中国の米国債保有状況を見てみましょう。

まずは中国です。2009年7月に突然、中国の米国債保有額が上がっていますが、これは2009年7月から米国債保有額のカウントの仕方をアメリカの国債局が変えた事によるものです。この辺の詳しい事情はよくわかりませんが、とりあえずこの急増はあまり気にしないこととします。
とは言え、中国は2009年12月から外貨準備高の運用方針を変えたのか米国債保有を減らしています。この辺りは人民元の柔軟化政策ともかかわってくるので、今後の展開が面白いことになるでしょうね。
俺が中国の外貨準備高の運用責任者であれば、中長期的には当然のごとく元高ドル安が進む事により、米国債をなるべく売り払いたいところです。じゃあ、一体外貨準備高を何で運用すればいいのかと考えた場合、他通貨で運用するという前提ならば、円が相対的に見て一番元高にはならないのではないかと思うので、中国は今後日本国債を買い出す可能性があると思います。(日本にとって、良い話なのか悪い話なのかは微妙なところですが。)

そして、日本の米国債保有額ですが、順調に積みあがっていることがわかります。とは言え、日本の場合は政府が米国債を買っているわけではないので、民間企業が買い増していることになります。
個人的には、利益追求する民間企業が「何で円高ドル安の進む中で、わざわざ米国債を買いたいのだろうか?」と思うのですが、日本企業が海外支店でだぶついたドル資金で米国債を買ってるのかな?あるいは、世界経済が正常に戻って円安になることを見込んで、日本の金融機関が米国債を買ってるとか?


いずれにしても2010年5月の時点では、日本(7868億ドル)と中国(8677億ドル)で米国債発行残高(13兆ドル)の13%程度を保有していることになります。「この程度の割合であれば、中国が米国債を売りさばいても、アメリカ政府は何とか耐えられるんじゃないの?」と思わなくもない数字ではありますが、国際収支の経常収支が大幅黒字国である中国や日本は、安定した世界経済を実現するためにも、個人的にはある程度の米国債やユーロ国の国債を買ってもいいような気がします。(それが、自国の国益にもつながると思うのですが……)



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posted by きらっち at 23:02| Comment(347) | TrackBack(0) | 経済

2010年07月24日

選挙制度で負けた民主党

とりあえず今日は、2009年衆議院選挙と2010年参議院選挙の得票率を比較してみましょう。確かに選挙結果(獲得議席数)は民主党が惨敗でしたが、得票率から垣間見える民意は、選挙結果とは微妙にずれている事実がわかります。


elec-comp.jpg
という事で、↑の表が2009年衆議院選挙と2010年参議院選挙の各党の得票率の推移です。まずは、民主党から見てみましょう。民主党は2009年衆議院選挙と2010年参議院選挙で、比例代表では得票率が42.41%→31.56%、選挙区では47.43%→38.97%と、かなり落ちたことがわかります。ただし、2010年参議院選挙においても得票率に関して言えば、第一党を維持していた事になります。にもかかわらず、獲得議席数で改選第二党になってしまったのは、1人選挙区で接戦の末に8勝21敗と大きく負け越したした事が原因です。つまり、選挙結果から推測される民主党の票の取り方は、人口の多くない県で接戦の末に敗れたけれども、複数選挙区の人口の多い県でたくさん票を取ったという事でしょう。事実、東京都の選挙区では民主党が2人当選しています。

一方で、民主党が得票率を減らした分、逆に大きく得票率が伸びたのはみんなの党です。みんなの党は、比例代表では得票率が4.27%→13.59%、選挙区では0.87%→10.24%と、得票率で大躍進しました。みんなの党は、全県の選挙区で候補者を立てていませんでしたが、もし全県で候補者を立てていれば、10%後半の得票率を取れたかもしれませんね。選挙区の得票率に関しては、候補者をたくさん立てれば立てるほど得票率が上がるので、一概に比較できるものではないのですが、いずれにしてもみんなの党は局地的に支持を得ているわけではなく、全国的に票を取れる政党に成長している事がわかります。

そして自民党ですが、比例代表では得票率が26.73%→24.07%、選挙区では38.68%→33.38%と、多少減少しています。おそらく、前回の衆議院選挙からみんなの党、たちあがれ日本、新党改革等に票が流れたのでしょうね。ただ、それにしてもこれだけ得票率をまだ得られるという事は、さすがというか何と言うか自民党の凄さを感じます。ただ、選挙区の得票率については、公明党に随分助けられているような気もしますが。

その公明党ですが、比例代表では得票率が11.45%→13.07%、選挙区では1.11%→3.88%となっています。公明党の比例代表の場合は組織票が固いので、投票率が高ければ公明党の得票率は下がるし、投票率が低ければ公明党の得票率は上がるわけで、なかなかこの票だけだと確かな分析は難しいですね。ただ、公明党は比例代表の得票率の割には、選挙区での得票率が大きく落ちます。これは公明党が、「勝てる選挙区にしか候補者を出さない」という選挙方針があるからです。なので、実際に2010年参議院選挙では、選挙区の得票率がわずか3.88%にもかかわらず、3人の候補者全員を当選させています。公明党はある意味で、最小限の労力で最大人数を当選させているとも言えるので、なかなかスマートな選挙戦略であったと言えるかもしれません。

公明党と逆の戦略を貫いているのが、共産党です。共産党は、比例代表の得票率が7.03%→6.10%、選挙区では4.22%→7.29%となっています。共産党の場合は、2010年参議院選挙の全選挙区において候補者を立てたので、得票率は7.29%を取りました。もっとも、当選した人はいませんでしたので、7.29%全てが死票になってしまいましたが……。ちなみに、2009年衆議院選挙の選挙区では4.22%しかとれていませんが、これは300の小選挙区の半数程度しか候補者を立てなかったためです。比例代表では、それなりに議席も獲得できるわけだし、勝てない事がわかっているのに選挙区に候補者を立てても、供託金の没収がもったいだけのような気がするんですが……。


その他の小政党については省略しますが、今回の2010年参議院選挙については、自民党は「選挙制度」と「実質的な公明党の選挙協力」によって、相当に助けられた側面があります。得票率でみると自民党はまだ民主党に差があるので、やはり得票率でも第一党にならないと、真に選挙に勝ったと胸を張って言えないのかもしれません。一方で、次の衆議院選挙でもみんなの党が台風の目になりそうですが、個人的には民主党と同様にみんなの党のアジェンダは「本当に実現できるのか?」と思ったりもしています。


という事で、今回は全国を対象にして、2009年衆議院選挙と2010年参議院選挙の各党の得票率を見てみましたが、近いうちに東京都の2010年参議院選挙結果を分析しようかと思いますので、取り急ぎ予告しておきます。



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posted by きらっち at 17:28| Comment(11) | TrackBack(0) | 政治

2010年07月21日

2010年5月の日米欧中マネーストック最新状況

@【2009年12月の日米欧中マネーストック最新状況】(2010年2月10日)
http://kiracchi-serendipity.sblo.jp/article/35247479.html

さて、日米欧中のマネーストックについては、↑@で昨年12月の統計まで推移を見ていましたが、その後はどうなっているのでしょうか。今日は、今年5月までの統計を見てみましょう。


201005_money-stock_juec.JPG
という事で、↑が2010年5月までの日米欧中のマネーストック推移となります。毎回、このグラフを見るたびに、「誰もが思う突っ込みどころが1点あるよなぁ」と思っちゃいますね。(笑)


さて、とりあえず今回はEUから見てみましょう。EUは、リーマンショック後の2008年10月からマネーストックがほとんど変化していません。元々、EUはインフレを抱えている国が多いため、必然的にマネーストックが増加していたわけですが、その流れがリーマンショックでパタリと止まりました。EUのマネーストックはM3(=M1+定期預金+据置貯金+定期積金+外貨預金+CD(譲渡性預金))を取っています。ここではグラフは出していないのですがEUのマネーストック(M1)は順調に増加していることから、「定期預金」「据置貯金」「定期積金」「外貨預金」「CD(譲渡性預金)」を削って、M3にカウントされない何かを購入している事になります。それが株なのか債券なのか、あるいは金や原油に代表される資源関係かはわかりませんが、このバランスシート不況の中でEUの人たちが「株」「債券」に多く流れるとは思えないので、EUのマネーストックが増加しない今の状況は非常に嫌な感じがします。


アメリカについても、マネーストックについてはEUと似た状況かもしれません。ただ、アメリカのマネーストックはM2(=現金通貨+国内銀行等に預けられた預金)を取っているので、外貨預金で海外に逃げるマネーはカウントされていません。しかも、アメリカのマネーストックは微増ながらも増え続けているため、EUほど深刻な状況でも無いように思えます。おそらく、量的緩和によって溢れたマネーが海外投資に向かったり、株や債券等から資産シフトにより現金・預金に移った一部が再び株や債券等に戻る事で、マネーストックの増加率が落ちているのだと推測できます。もしこの推測が正しければ、アメリカは少なくとも5月までは正常な経済を取り戻しているとも言えるかもしれません。(最新の経済指標では、二番底の懸念が出てきましたが……)


日本については、ほとんど2007年から変化がありません。あえて書くのであれば、2009年1月辺りからマネーストックの増加率が多少上がっているような気がします。ここでは詳細なグラフは載せていませんが、これの主な要因は「定期預金」「据置貯金」「定期積金」が増えている事なので、明らかに株や債券等の金融資産から安全資産である「定期預金」等に資産シフトが起こっているわけです。この流れだと、結局預金を預けられた銀行は日本国債を買うしか無いのですが、肝心の政府が予算を絞る方針なので、これからも景気が大幅に良くなる事はないでしょうね……。


そして、一番の突っ込みどころの中国です。3年5ヶ月でマネーストックが1.9倍になっているので、尋常な状態じゃないような気がしますね。ただ、最近の中国の名目GDP成長率(2007年23%、2008年18%、2009年7%)を察するに、マネーストックが経済成長率に比例するのであれば3年間で1.55倍(=1.23*1.18*1.07)程度の増加については、自然なのかもしれません。とは言え、実際の中国のマネーストックは2007年から3年間で1.7倍になっているので、何らかの歪が出ていてもおかしくないような気がしますが……。


という事で、次はまた半年後くらいに「マネタリーベース」と「マネーストック」について、追ってみたいと思います。



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posted by きらっち at 22:22| Comment(56) | TrackBack(4) | 経済

2010年07月19日

2010年5月の日米欧中マネタリーベース最新状況

@【2009年12月の日米欧中マネタリーベース最新状況】
http://kiracchi-serendipity.sblo.jp/article/35176671.html

ブログ再開の第一弾として、今日は各国マネタリーベースの最新状況を見てみましょう。@で、2009年12月までのマネタリーベースは見てみましたが、果たして何か大きな変化があらわれたでしょうか?


201005_money-base_juec.jpg
という事で、↑が2010年5月現在の日米欧中のマネタリーベース推移となります。何回も書いて申し訳ないのですが、「マネタリーベース」とは「各国中央銀行が社会に供給するお金の総額(通貨流通量+民間銀行への当座預金残高)」という事になります。ここでは各国の通貨単位がバラバラで数字の桁も異なるので、2007年1月の各国のマネタリーベースの数字を100として指数化したものの推移を表しています。

アメリカを見てみると、2010年2月をピークにしてマネタリーベースが落ち着きだしました。アメリカは昨年にこれ以上の量的緩和を打ち切っていて、とりあえず今の水準で様子見というところなんですかね?

EUについては、2010年に入ってマネタリーベースが上昇トレンドになっています。もともとEUは、リーマンショックよりも以前からインフレ懸念のある国がある事も影響しているのですが、今年に入ってのギリシャ問題が表面化した事等により、信用不安を和らげるために一時的に紙幣供給してるのでしょうか?ECB(ヨーロッパ中央銀行)が量的緩和へ舵を切ったので、今後おそらくEUのマネタリーベースの上昇ペースが上がるような気もします。

中国についても、特段大きな変化はありません。中国は、もともと2月に旧正月を迎えるため1月は消費が大きくなることにより、1月のマネタリーベースが大きくなる傾向があります。しかし、中国はここ数年は毎年20%近くの名目GDPが上昇しているにもかかわらず、マネタリーベースの伸びはそこまで大きくありません。これは、一体どう解釈すればいいのでしょうか?この辺りも、時間があるときにゆっくり考えてみようと思います。

そして、最後に日本のマネタリーベースですが、ほとんど増えていません。日本は中国と同様に、12月と3月の経済活動が活発になることより、毎年12月と3月にマネタリーベースのピークができます。アメリカやEUと比較すれば、日本銀行の金融政策は「静観」が続いていますね。これを「無策」と見るか「日本の金融は正常なので、あえて手を打つ必要は無い」と見るかは、いろいろと意見の分かれるところかもしれませんが、少なくとも「まだ量的緩和の手段は残されている」という事で、日本は隠し玉を持っていると言えそうです。


しかし、アメリカはマネタリーベースをいつか元の状態に戻すことを考えているのでしょうか?マネタリーベースがこんな状態で、アメリカの景気が本格的に回復してしまう状態になると、市中に大量のドルが出回り始めるために、ドル安がさらに進んでしまうような気がします。あまり考えたくないのですが、今後はアメリカの景気回復が進むとドルの供給過剰で円高が進み、アメリカが景気回復しないと安全通貨への逃避で円高が進むという、どっちに行っても円高が進みそうな気がします。



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posted by きらっち at 21:11| Comment(64) | TrackBack(0) | 経済

2010年07月15日

長い休養でした……

職場の異動と私事でいろいろあり、3月末から更新が止まり申し訳ありませんでした。来週から、再び最近の経済ネタを中心にブログを再開します。以前の更新ペースは厳しいとは思いますが、一週間に3度を目標に頑張ります!

ブログ休止中は、コメント欄やメールで心配してくれる人がたくさんいて、どうもすみませんでした。特に体調が悪くなったわけでもなく、元気ですのでご心配なく。
posted by きらっち at 23:52| Comment(15) | TrackBack(0) | 日記