2009年11月08日

ランダムウォークとその周辺@

数学の確率や統計の分野で「ランダムウォーク」と呼ばれる分野があります。このランダムウォークは、「賭け事のみならず、株価や為替相場に応用の可能性がある」という事で、経済関係の研究者でも研究対象になっているのだけど、今日を含めて2回か3回程度に分けて、このランダムウォークの基礎になるところを説明しようと思う。

さて、今日はまず1次元のランダムウォークと逆正弦法則について説明しよう。第一回目からで申し訳ないのだが、早速人間の直感がいかにいい加減かを思い知らされる事になるでしょう。


randam-walk0.jpg
とりあえず最初は「1次元ランダムウォークとは何か?」という事だけど、↑の画像のように数直線があって、まずは「0」の場所に自分がいるとしよう。ここで、サイコロ(ここでは細工の無い公平なサイコロを考える)を振って奇数が出たら+1(→)に動き、偶数が出たら-1(←)に動くとする。つまり、右か左かどちらに行くかはわからないけれど、ランダムに隣へ動き続けることになるわけだ。これが「ランダムウォーク」と呼ばれるもので、例えば右に行くことが「コイントスで表が出る」とか「株価が上がる」事で、左に行くことが「コイントスで裏が出る」とか「株価が下がる」とかに応用できるわけだ。

さて、まずはこのランダムウォークだけど、2回、3回、4回とサイコロを振った後の事を考えてみよう。それぞれのサイコロの目の出方とサイコロを振り終わった後の自分の位置を考えると、以下のようになる事が考えられる。

【2回サイコロを振る場合】
1.→ →(+2の場所に移動)
2.→ ←(0の場所に移動)
3.← →(0の場所に移動)
4.← ←(-2の場所に移動)

2回サイコロを振った後に
「+2」の場所にいる確率1/4
「0」の場所にいる確率2/4
「-2」の場所にいる確率1/4


【3回サイコロを振る場合】
1.→ → →(+3の場所に移動)
2.→ → ←(+1の場所に移動)
3.→ ← →(+1の場所に移動)
4.→ ← ←(-1の場所に移動)
5.← → →(+1の場所に移動)
6.← → ←(-1の場所に移動)
7.← ← →(-1の場所に移動)
8.← ← ←(-3の場所に移動)

3回サイコロを振った後に
「+3」の場所にいる確率1/8
「+1」の場所にいる確率3/8
「-1」の場所にいる確率3/8
「-3」の場所にいる確率1/8


【4回サイコロを振る場合】
1.→ → → →(+4の場所に移動)
2.→ → → ←(+3の場所に移動)
3.→ → ← →(+2の場所に移動)
4.→ → ← ←(0の場所に移動)
5.→ ← → →(+2の場所に移動)
6.→ ← → ←(0の場所に移動)
7.→ ← ← →(0の場所に移動)
8.→ ← ← ←(-2の場所に移動)
9.← → → →(+2の場所に移動)
A.← → → ←(0の場所に移動)
B.← → ← →(0の場所に移動)
C.← → ← ←(-2の場所に移動)
D.← ← → →(0の場所に移動)
E.← ← → ←(-2の場所に移動)
F.← ← ← →(-2の場所に移動)
G.← ← ← ←(-4の場所に移動)

4回サイコロを振った後に
「+4」の場所にいる確率1/16
「+3」の場所にいる確率1/16
「+2」の場所にいる確率3/16
「0」の場所にいる確率6/16
「-2」の場所にいる確率3/16
「-3」の場所にいる確率1/16
「-4」の場所にいる確率1/16

ここでは、2回〜4回までサイコロを振る事しか考えていないけれど、一般的にn回サイコロを振った後に「0」付近に移動する確率が大きそうな気がしますね。確かにその通りで、スタート地点が「0」でサイコロを振るたびにランダムに左右へ動くので、当然「0」近くにいる確率は高くなりそうな気はします。ただし、サイコロを振る回数が100回とか1000回くらいになると、↓のようにサイコロを振った後に「0」近くにいる確率は低くなって、確率分布がだんだん正規分布に従う事になります。(ちなみに、この事象はまさに二項分布そのものです。)
randam-walk1.jpg


さて、ここまでは高校の数学で習っているので、直感的に理解できる人も多いとは思いますが、次は「n回サイコロを振って、n回移動する中でそのうちどのくらいの確率で「0以上の場所にいるか」」を考えます。ちょっとわかりにくいので、具体例として4回サイコロを振ること(n=4)として、それぞれ1.〜G.でどのように移動するかを見てみましょう。

【4回サイコロを振る場合】
1.→ → → →(1 2 3 4)「0以上の場所にいる確率」は4/4
2.→ → → ←(1 2 3 2)「0以上の場所にいる確率」は4/4
3.→ → ← →(1 2 1 2)「0以上の場所にいる確率」は4/4
4.→ → ← ←(1 2 1 0)「0以上の場所にいる確率」は4/4
5.→ ← → →(1 0 1 2)「0以上の場所にいる確率」は4/4
6.→ ← → ←(1 0 1 0)「0以上の場所にいる確率」は4/4
7.→ ← ← →(1 0 -1 0)「0以上の場所にいる確率」は3/4
8.→ ← ← ←(1 0 -1 -2)「0以上の場所にいる確率」は2/4
9.← → → →(-1 0 1 2)「0以上の場所にいる確率」は3/4
A.← → → ←(-1 0 1 0)「0以上の場所にいる確率」は3/4
B.← → ← →(-1 0 -1 0)「0以上の場所にいる確率」は2/4
C.← → ← ←(-1 0 -1 -2)「0以上の場所にいる確率」は1/4
D.← ← → →(-1 -2 -1 0)「0以上の場所にいる確率」は1/4
E.← ← → ←(-1 -2 -1 -2)「0以上の場所にいる確率」は0/4
F.← ← ← →(-1 -2 -3 -2)「0以上の場所にいる確率」は0/4
G.← ← ← ←(-1 -2 -3 -4)「0以上の場所にいる確率」は0/4

「4回サイコロを振って16通りある出方で」
4回の移動後の位置が全て0以上になる確率6/16
4回の移動後の位置が3回で0以上になる確率3/16
2回が0以上になる確率2/16
1回が0以上になる確率2/16
0以上にならない確率3/16

いずれにしても、4回全てが0以上になる確率が6/16と高いわけです。今はn=4の時を考えましたが、nが大きくなるとこの傾向が顕著に出てきて、↓のような分布になります。
randam-walk2.jpg
つまりこれは、コイントスの賭けを何度もした場合、最終的にはどちらかが勝ち(負け)に偏る確率が大きい事を意味しています。これは非常に面白い現象で、要は「今は大きく負けているけど、そのうち取り返せるはず」というギャンブラー特有の心理が、確率計算によって物の見事に否定されている事になります。

「いやいや、1/2で勝負のつくゲームだと期待値はプラスにもマイナスにもならないのではないか?」とか、「さっきの正規分布と矛盾してるのではないか?」と思う人もいるでしょう。俺も、大学で最初にこれを習ったときにはそう思いましたが、当時の先生はこのように説明してくれました。
コイントスは表と裏の出る確率は共に1/2なので、期待値としては勝ち負けがイーブンになると君は思っているのだろう。しかしそれは、「ゲームを一回で終わらせた場合の平均値」という事で、多くの人が誤解している部分だ。確率論で言うところの「期待値が0」という意味は、無限回数のゲームを行えば「勝ち負けの差/ゲーム数」が0になるということに過ぎないわけだよ。勝ち負けの差もゲーム回数が増加するほど大きくはなるが、ゲーム回数に比べればその増加スピードは非常に小さいだけだ。

と、ばっさり切られた記憶があります。ちなみに、この事を確率用語で「逆正弦の法則」と言います。賭け事が好きな人は、覚えておいた方が良いのではないでしょうか。


さて、次回(来週くらいですかねぇ)は1次元ランダムウォークではなく、2次元と3次元ランダムウォークについて説明します。



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posted by きらっち at 02:10| Comment(2) | TrackBack(0) | 科学
この記事へのコメント
横軸が+または−にいた時間なので、逆正弦でもそんなに不思議な気はしません、です。
Posted by お天気兄さん at 2009年11月15日 22:36
>お天気兄さん
さすがに鋭いですねぇ。当時の俺は、「逆正弦」と「正規分布」が矛盾するのではないかと散々悩んだよ。
これ、大学生にどうやって教えればいいかねぇ……。
Posted by きらっち at 2009年11月18日 00:16
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