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A【アイスランドの経済状況〜その1〜】(2010年03月10日)
http://kiracchi-serendipity.sblo.jp/article/36221661.html
というわけで、↑の@とAに引き続き、今日はアイスランドの国際収支の推移を見てみましょう。
まずは、最初にアイスランドの直近の経済情勢について説明しておきましょう。
リーマンショック前のアイスランドは、「自国の高金利を餌に外国からの預金や投資を集めたり、海外からの外貨建て借り入れを元手に金融派生商品を買い漁って運用する」というビジネスモデルを採用していました。サブプライム問題が起こる前までは、この戦略はズバリ的中し、アイスランドは国民一人当たりのGDPが5位になるまでに経済成長を遂げ、リーマンショック直前にはアイスランドの全銀行の資産総額はアイスランドGDPの10倍近くまで膨れ上がったわけです。ところが、リーマンショックが起こってアイスランドに預金や投資をしていた人達が、一斉にその資金を自国に引き上げようとしたために、アイスランドの銀行は資金繰りが追いつかずに破綻して国有化されてしまったわけです。(とはいうものの、アイスランド政府の破綻はまだしていません。)
つまり、アイスランドは「物」や「サービス」の取引でお金を稼ぐのではなく、(悪い言い方をすると)外国から流入するお金で飯を食べていただけなのですよ。それを踏まえた上で、↓の国際収支を見てみましょう。

という事で前置きが長くなりましたが、↑が2007年Q1〜2009年Q4までのアイスランドの国際収支です。いつもは、項目毎に説明してましたが、今日は時系列で説明します。
まずはリーマンショックが起きる前までですが、先ほど説明した通りアイスランドには「物」や「サービス」の取引で稼げる手段がないので、「経常収支」はマイナス収支になります。一方で外国からの預金や投資を得意としていたので、アイスランドは「資本収支」の方でプラス収支としてファイナンスしていたことになります。
実際に「経常収支」を詳しく見てみると、2008年Q3のリーマンショック前まで「貿易収支」「サービス収支」「所得収支」「経常移転収支」の全項目のほとんど全ての時期で、マイナス収支を記録しています。ちなみに、最も足を引っ張っていたのは「所得収支」ですが、この「所得収支」の赤字要因は海外への利子や利回りの支払いです。アイスランドは、高金利で海外からのマネーを調達できたところまでは良かったのですが、高金利で集めた故に利子や利回りの支払いもかなりの負担になってたわけですね。
一方で、2008年Q3のリーマンショック前までの「資本収支」ですが、基本的にはプラス収支で推移しています。ところが、詳しく見ていくと「資本収支」での稼ぎ頭は「その他投資」である事がわかるかと思います。実は、この「その他投資」のプラス要因は、「海外からの借り入れ」や「外貨建て債券発行」によって得たお金なんですよ。つまり、アイスランドは負債を増やして資本収支がプラス収支になっているに過ぎません。そりゃ、利子や利回りの支払いで大変になるわけですよ。(笑)
そして、時期によって変動が激しいのですが、2008年Q3のリーマンショック前までの「直接投資」や「証券投資」のマイナス分は、アイスランドから外国への投資が多いことに起因するものです。ちなみに、2007年Q4の「直接投資」が一気に-6000億クルーンを記録した要因は、アイスランドのカウプシング銀行がオランダの投資銀行を買収した事に起因したものと推測されます。
そして、2008年Q3以降のリーマンショック後は、アイスランドの国際収支ががらりと変わります。
先日のAのエントリーでも同じ趣旨の事は書きましたが、通貨暴落によって「貿易収支」と「サービス収支」がプラス収支になり、経常収支の赤字幅が縮まってきました。「所得収支」のマイナス幅が大きいので、アイスランドが今後恒常的に経常収支をプラスにできるかどうかはわかりませんが、金融依存を脱却するためにも、何とか「貿易収支」と「サービス収支」のプラス幅を拡大したいところです。
一方で「資本収支」の方ですが、数字上ではわかりませんが「直接投資」と「証券投資」の収支の中身に変化が出てきました。というのも、リーマンショック前までは、アイスランド国内から外国株や外国債券を買っていた事で、「直接投資」と「証券投資」がマイナス収支だったのですが、リーマンショック後は外国資本がアイスランド株やアイスランド債券を売ってアイスランドからの引き上げを始めたことにより、「直接投資」と「証券投資」のマイナス収支が悪化しました。一方で、「その他投資」は相変わらず「海外からの借り入れ」や「外貨建て債券発行」によってプラス収支を維持しているわけです。
う〜ん、アイスランドは通貨暴落して、国内銀行が軒並み国有化された上に、外資までアイスランドから逃げ出したにもかかわらず、結局は未だに外国から調達したお金に頼っているわけで、この辺りのやり方をチェンジしない限りは、アイスランド経済の根本的な状況改善は見込めないような気がします。そもそも今のやり方でも、お金を貸してくれる国もだんだん少なくなりそうな気が……。(っていうか、現状の「その他投資」はIMFが貸してる分なんですかね?)
という事で、アイスランドの国際収支を見てみましたが、やはり非常に厳しい状況です。(というか、絶望的状況と言った方が近いかもしれません)
「経常収支」が安定的にプラスにならないどころか、今もって海外からの資金調達に頼っているわけで、巨額の利子や利回りの支払いが今後もしばらく続きそうなのが不安要因ですね。
しかも、「経常収支」の収支額と「資本収支」の収支額の差がありすぎるので、「貿易収支」「サービス収支」の黒字幅を今よりも10倍とか20倍にしない限り、外国からの資金依存の問題は解決できないでしょうねぇ……。
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