http://www.kahoku.co.jp/news/2010/03/20100311t15018.htm
常識を覆される研究なので、そのうちノーベル物理学賞も十分狙えるかもしれませんね。
という事で今日は、「電気を流さない絶縁体」に対して、何故本研究で電気信号が送れたかを説明しましょう。

↑が、「通常の電流伝送」と「本研究での電気信号伝送」との違いです。
「通常の電流伝送」の方は、入力側(正極)に電気をかけると金属・半導体中の負電荷を持つ電子が引き寄せられます。この電子の移動によって電気が流れるわけで、直感的にイメージしやすいとは思います。ところが、「本研究での電気信号伝送」は負電荷を持つ電子が動くわけではないために、何故電気信号を送れるのかまったくイメージができません。これを理解するためには、「スピン波」と「磁場」の知識が必要となります。
【スピン波について】
という事で、まずはスピン波の性質について説明しましょう。電子は原子核の周りを回っている(公転している)のは皆さんもご承知の通りですが、実は電子は公転だけではなく自転もしています。(正確には自転ではないのですが、自転と考えてもあまり矛盾は出ないので、このまま自転で説明します。)この自転の事をスピンと言って、このスピンには向きが定義されています。(電子の自転が「右回り」か「左回り」か、というようなイメージ)実は過去の研究から、このスピンの向きがその物質の磁性と密接に関係する事がわかっています。
そして、スピン波とは↑の図のように、絶縁体である磁性ガーネットに電気を流すと、この磁性ガーネット中の電子のスピンの方向(自転軸の向き)が変わるわけです。このスピンの方向(自転軸の向き)の変化が、あたかも磁性ガーネット中を波のように伝わっていくので、この現象を「スピン波」と言っているわけですよ。
【磁場について】
実は、「電気」と「磁気」は密接に関係しています。というのは、「ある場所に電気が流れる=その場所の磁場が変化する」という物理法則があるからです。つまり、以下の@とAが自然界の法則としてあるわけです。
@電流が流れる→磁場が変化する
A磁場が変化する→電流が流れる
これで、ピンっと来た人もいるのではないでしょうか。
【スピン波について】で説明しましたが、磁性ガーネット中を伝わるスピン波はスピンの方向(自転軸の向き)を変えるため、反対側の電極でAの法則を利用して磁場変化を電流に変換しているって事ですね。
注意しなきゃいけないのは、あくまで「絶縁体である磁性ガーネット中で電気が流れている」というわけではなく、「磁性ガーネット中の電子スピンを介して、反対側の電極で電流を発生させてる」というわけですよ。
このメカニズムを利用して、電気回路等にいつ応用できるのかはわかりませんが、とりあえず次なる目標は「安くて相性の良い電極と絶縁体探し」ですかね。
是非とも事業仕分けで本研究の予算が削られないことを望みます……。
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