@【バルト3国 やはり一番手はラトビアか?】(2009年Q1)
http://kiracchi-serendipity.sblo.jp/article/30153940.htmlA【エストニアは回復基調に乗るのでは?!】(2009年Q2)
http://kiracchi-serendipity.sblo.jp/article/32695324.htmlという事で、@Aに引き続いて、恒例のバルト3国を最新状況をお伝えしましょう。昨年の年末に「ギリシャのデフォルト懸念」のニュースがあって、EU圏の注目国が「ラトビア」から一気に「ギリシャ」に移った感もありますが、個人的には現在失業率23%という凄まじい数字を叩き出しているラトビア経済の崩壊っぷりの方が心配だったりします。

さて、まずは↑の外貨準備高ですが、7月にEU融資によって「ラトビア」の外貨準備高が急増した以外には特段の大きな変化はありません。10月に「リトアニア」の外貨準備高が急増しましたが、これは10月に5年物のドル建てリトアニア国債発行で得たドルによるものです。
2009年Q3以降は、バルト3国が共に外貨準備高が増加の傾向を示しているため、以前と比較すれば非常に安心できる展開になってきました。

そして次に、↑のGDPを見てみましょう。前回までは名目GDPのみを出していましたが、今回は物価変動を考慮した実質GDPも参考のために出しておきました。
前回の@のエントリーで、総固定資本形成の「在庫変動」(↑画像中には示されていませんが)のマイナス幅が縮小する事によって、「エストニアが一番早く景気が回復するのではないか?」と自分なりに予想しましたが、どうやらそれは外れてしまったようです。確かに、エストニアの「在庫変動」のマイナス幅が大きく縮小して「総固定資本形成」は改善したのですが、「最終民間消費」の落ち込み幅が大きくて、「総固定資本形成」の改善分を取り崩してしまったのが原因です。一方で「リトアニア」の2009年Q3では、「最終民間消費支出」の落ち込み幅の小さかったわけで、ここが差を分けるポイントになりました。(「失業率の推移」を見ておけば、「最終民間消費」の予測もできていたかもしれませんねぇ……)
そして、ラトビアのGDPはまだ底が見えません。2009年Q2に、微力ながら「ようやく底打ちか?」と思ったのもつかの間で、Q3に再び名目GDPが失速してしまいました。さらに実質GDPで見ると、ひたすら「坂道を転がるが如く」になっているのがわかると思います。

次に、↑の国際収支です。
「エストニア」は経常黒字を確保しましたが、完全に「サービス収支」が稼ぎ頭になっています。「資本収支」の方では、「直接投資」「証券投資」がQ2に引き続きエストニアが海外投資をする事によるマイナス収支なのですが、「その他投資」はエストニアの金融機関が、B「国外短期融資の引き上げを止めた事」と、C「外貨の買い入れを止めた事」による2つの資産減少要因によるものです。
つまり、エストニア金融機関は以前に比べると資金繰りに余裕ができてきたので、手元に多額の外貨を用意しなくてもよくなったのではないでしょうか?そう考えると、BとCが同時に起こった理由を説明できそうです。
意外と言えば意外ですが、「ラトビア」も経常黒字を確保しています。ところがラトビアの場合の黒字要因は特殊です。というのも、2009年Q4から「所得収支」がプラスになっていますが、これはラトビア民間会社の展開する海外子会社からの利子や利回りを自国に還元させずに、海外子会社に留めさせる「再投資収益」による黒字なわけです。つまり、ラトビア民間会社は、ラトビア通貨の切り下げ後に海外子会社からの利子や利回りを還元させる方が為替得を狙えるので、ラトビアの通貨危機が完全に収まるまでは海外子会社からの利子や利回りを還元しないつもりなんでしょうね。裏を返せば、ラトビアの所得収支の黒字は「自国通貨の信頼の無さ」を表しているのかもしれません。
一方で、外貨預金のために大幅に赤字幅が拡大していた「その他投資」が、Q3になって逆に大幅黒字を達成しました。EUによる融資で、ラトビア通貨危機が一安心したからでしょう。
リトアニアに関しても、経常収支が非常に特殊です。というのも、リトアニアの場合は「経常移転収支」が経常収支の稼ぎ頭になっています。「経常移転収支」は、「ODAや国連援助による返済義務の無い一方的な支払い」と「労働者の仕送り」等による収支を意味しているのですが、リトアニアの場合は前者の収支が支配的です。つまり、リトアニアは「援助金」によって経常収支の黒字を維持しているわけなんですね。リトアニアの今後の外貨獲得は大丈夫なんですかね?
一方で、リトアニアの「資本収支」はマイナス収支から脱することができません。足を引っ張っているのは「その他投資」なのですが、2009年Q3に関してはリトアニア国内の金融機関が、海外に多額の短期貸付を行った事に起因するものです。一体、何故リトアニアの金融機関は短期で海外に多額の貸付をしたのでしょうか?これに関してはまた後日に詳しく書こうかと思います。

そして、↑が対外債務の推移です。
2009年Q3を見てみると、ラトビアは政府部門の債務だけではなく、ほぼ全部門で債務額がバルト3国の中ではトップなわけですよ。経済規模はリトアニアよりも小さいのに債務額がバルト3国で一番多いというわけで、数字を見てもラトビアが一番苦しいだろう事が容易に想像できます。

それでは、↑にバルト3国の状況をまとめましょう。
端的に結論を言えば、やはりラトビアは非常に厳しい状況が続いています。政府債務については名目GDP比と外貨準備高比が共に100%近くであり、しかも短期債務(ここでは政府部門のみでなく全部門合計の短期債務)も外貨準備高を越えているので、まだまだヤバイ状況は変わりません。
エストニアについては、政府債務が少ないので国としてのデフォルトは無いでしょうけど、短期債務が非常に大きいのでエストニア国内の金融機関とか民間部門は厳しい状態です。おそらく、政府債務の少なさによって外国資本の引き上げが抑えられている状態なんでしょうね。裏を返せば、エストニアは国の主導ではなく、民間や外国資本が主導で発展してきた国という事ではないでしょうか?やはり、「最後は国の財政状況で外国からの信用力が問われる」という良い例なのかもしれません。
リトアニアは、3国の中では一番マシな状態です。先ほどの国際収支のところでも書きましたが、多少心配な点が無くは無いのですが、取り急ぎすぐにどうのこうのという事はないでしょう。
さて、2009年Q4も引き続きバルト3国の状況を追ってみます。
今日のエントリーで、「なるほど」「ふむふむ」「面白い」などと思ってくれた方で、一票を頂ける方は是非ともお願いします。↓